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[ 連載企画 ] モヤモヤする女と、絶望する女

連載企画3つ目のエピソードは、自身の性自認に従い、性別移行によって男性になった理壱さん(Episode2)と結婚したちひろさんのお話。ちひろさんが理壱さんのことを自然に受けいれられたのは何故か。シスジェンダーであるちひろさんにとって、トランスジェンダーである理壱さんとの結婚に迷いはなかったのか。家族の理解を得ること、子どものこと。すべてをまっすぐな言葉で伝えてくれた。

Episode2/ ちひろさん(ライター)

単に好きだから一緒にいるとかじゃなくって、やっぱりそれだけの腹を決めて一生一緒にいるというのを、そういうつもりがあるっていうのを示したかった。

記事より抜粋

ー理壱さんの第一印象は?

4年前、アパレル店の広報チームの一員として知り合いました。最初はラインで仕事上のやり取りしているだけだったんですけど、ある日、現場でメンバーが顔合わせを兼ねた打ち合わせをすることになって、その時、初めて会ったんです。私はガード固めなので、初めての人とはなかなか打ち解けられないタイプだけど、彼は会ったばかりなのに「はい、撮るよー」って、みんなと一緒に自撮りしたりして、「何!?この勢いは!」みたいな感じでしたね(笑)。

ーそこからどうやって付き合うまでになったのですか?

初めて会った日の夜、彼から「今日はありがとうございました」ってラインがきて。それから電話もするようになって、しかも3時間4時間ぐらいの長電話。喋り始めたら面白い人だなと思うようになったんです。
それで「今度遊びに行きましょう」「ここ行こうよ」とか「ここ行ってみない?」って感じで、会った日の1週間後にまた会って、その日にもう付き合うことになったんです。

ー理壱さんがトランスジェンダーであることはどのタイミングで知ったのですか?

付き合った後に彼が話してくれたんですけど、彼がなかなか言い出せなくて。デートした日に私を家に送ってくれる途中、コンビニの駐車場に車止めて、そこで1時間半ずっと喋ってたんですよ。いろんな話をしてて、なんか言いたいことがありそうだなと分かるけど、ネタを挟みつつ、ずっとたわいもないことを喋ってる(笑)。で、私、なんとなくわかったんです。

ー 理壱さんが何を話そうとしているかということが?

はい、それまでにも「もしかしてそうじゃないか」と思い当たることがあって…男性にしては肌が綺麗だなとか、あと大学生の時に仲良くなった友達が、卒業後に性別を女の子から男の子に変えたっていう報告をしてくれたことがあったし、その前にも女性のことが好きな女性の先輩とかもいて、身近にそういう悩みというか、抱えている人がいたこともあって、なんとなくそうかな、と思ったんです。だから、あ、と思って「言いたいことがあるんじゃない?」ってきっかけをつくったら、やっと話してくれました。

ー 聞いた瞬間はどんな気持ちでしたか?

「もしかして」と思ってはいたけど、実際、自分と深く関わる人がそうだったということにびっくりはしました。けど、ぜんぜん抵抗感もなくて、人間としていいなと思った人だったから、その時はもう、彼と結婚するつもりぐらいの勢いの腹の決まり具合だったんです。

ー理壱さんも付き合い始めてすぐ結婚を意識していたそうですが、ちひろさんもそうだったのですか?

そうですね。もともと結婚への憧れとかないほうだったんですが、彼と出会って、本当に心から安心して一緒に居られる人と人生を共にできる方がいいなって思ったし、それが結婚っていう形で約束されるのであれば、結婚するのがいいんじゃないかなって思っていました。

ー 理壱さんに会うまでは「結婚」について考えたことはなかった?

物心ついた時から父と母の仲が悪くて、そういう親を見ながら育って、しんどそうにしている母をずっと見てたから、そんなことになるぐらいなら結婚なんかせんでいいじゃん、みたいな感じだったですね。
でも彼と出会って、もう一生一緒にいるっていう腹が決まったというか、そういう感覚になったから、結婚しようかなと思ったんです。結婚するっていうことがけじめだと思った。

ー それは誰に、あるいは何に対してのけじめだと思ったのですか?

彼に対しても、私の家族に対してもです。単に好きだから一緒にいるとかじゃなくって、やっぱりそれだけの腹を決めて一生一緒にいるというのを、そういうつもりがあるっていうのを示したかった。

ーご家族にはどのタイミングでお話しされたのですか?

母には彼と付き合うことになってすぐ話しました。彼と付き合い始めたのは7月なんですけど、ちょうど近所の花火大会に母と二人で車で出かけることになって、そのタイミングで話しました。
母は昔から私が彼氏できたりとかすると気づくんですよ。そのときもやっぱり、私の最近の様子を見てなんかいい人できたんだろうみたいな感じで言われて、そうなんだけどねって、実はこういう人と付き合ってるけど、落ち着いて聞いてねって。彼はこういう仕事してて、こういう風に言ってくれて、私はこう思ったから彼と付き合うと決めた、と言ったんですね。
そしたらすごいびっくりしてましたけど「あなたももういい年だから、まあ自分で責任持って、ちゃんと生きていけたらいいんじゃないの?あなたの好きなに生きたらいいんじゃないの?」って言ってくれました。

ーお母様は理解してくれたわけですね。

はい、あと姉と兄がいるんですけど、二人にも、彼にはこういう過去があるんだっていうことを伝えたら、「自分が幸せならそれがいい」って言ってくれて。
ただおばあちゃんに話すのは勇気がいりました。

ー それはなぜですか?

おばあちゃんは百姓をずっとやってて、田舎のおばあちゃんって感じで、古い考えの人。私たちが子ども、つまり二人の子どもは形式上は無理じゃないですか。どうなっていくかわからないにしても、結婚した相手との子ども、血縁関係の子どもは持てないっていうところがあるから、そこもちゃんと言わないとと思ったから、​​そのことをおばあちゃんがちゃんと受け入れてくれるか心配だったんです。

ーおばあちゃんはどんな反応でしたか?

すごいびっくりして「あんたにいい人がおるんじゃろうと思っとったけど、まさかそんな相手だと思わんかった」って。でもことばを選びながら、正直に、自分の決意表明みたいな感じで、理壱くんの過去のことと、彼の人柄を話したら「今はそういう人もおるんじゃもんね。それが表に出て皆が生きやすい社会にしようみたいになっとるんじゃもんね」って言いながら、祖母自身も自分に言い聞かせるように、わたしが幸せであるならそれがいいと言ってくれました。

ー おばあちゃん含め、ちひろさんのご家族と理壱さんのご関係はその後、どうですか?

理解をしてくれています。家族みんな彼に会って、彼の明るさや誰にでもフランクなところを見て、「あ、なんか大丈夫だな」って思ったみたいです。だから、そういう家族に対して、私はやっぱり結婚って形を取りたかったのだと思います。結婚をしたことで、家族はまた1つ、安心してくれたんじゃないかなと思っています。


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