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[ 連載企画 ] モヤモヤする女と、絶望する女

連載企画2つ目のエピソードは、自身の性自認に従い、性別移行によって男性になった理壱さん、そして理壱さんと結婚したちひろさんのお話。
ちひろさんとの出会いから結婚に至るまでのお話をしてくれていた理壱さん。「なぜ結婚を選んだのか」という話の中で、ふと甦った小学生の頃のある日の授業風景。それは「なんで生きてるんだろうと、目の前が真っ暗になった」という、まさに「絶望」の記憶でした。

Episode2/ 理壱さん(写真家)

結婚して、仕事して、子供が生まれたよとか、みんなは普通に書いてたんですけど、僕はその時、目の前が真っ暗になったんです。みんなは書けるのに僕は書けないと。

記事より抜粋

―ちひろさんとはどうやって知り合ったのですか?

僕は写真家、彼女はライターとして、仕事仲間として知り合いました。
顔を合わせる前にLINEで業務的なやり取りをしてたんですけど、そのやり取りの感じから「ガードが硬い人」かもって思っていました。
で、実際、会っての第一印象は「声がかわいいな」とか思ったんですけど、それ以外は特に何も感じてなかったんです。
でも会ったすぐ後に彼女のインスタを見たんです。こんな顔だったかなとか、動物好きなんだなとか思ったりして見てたら、そこで彼女が書いた詩を見つけたんですよ。どんな詩だったかは覚えてないんですけど、でも素敵な感性を持ってるなと思って、それで「なんでこういう文章が書けるの?」って電話して聞いたんです。

ー「何も感じてない」と言いつつ、かなり気になる存在だったのでは?(笑)

そうですね(笑)。インスタをチェックしたり、電話したりってことはやっぱりもう心が動いてたんですよね。彼女に興味があったんです。初めて会って一週間後には約束してまた会って、その日にもう付き合うことにしたんです。結構、電撃ですよね(笑)。

― ちひろさんと付き合って、かなり早い段階で結婚を意識していたそうですね。

うーん、結婚への憧れがあったからですかね。やっぱり結婚したら見えないものも見えるだろうし、結婚って紙切れ一枚のことかもしれないんですけど、そこに責任が生まれるじゃないですか。で、その責任ができた時にどんな自分になるんだろう、っていうか。
もう一つは法律的な話なんですけど、彼女に何かあったときに個室で付き添えるのは近親者でないとダメなんです。それは大きいかなと思って。後づけかもしれないんですけど、後々調べたらそうだったんで。それはそれでよかったかもしれないなと思って。結婚することで、そういう権利があることが大きいかなと思って。望む性で生きていけるんだから、それを使ってみなきゃなっていう感じでした。

―性別移行して戸籍上でも男性になったから結婚ができるようになった。そのことに意味を感じられた、という感じだったのでしょうか。

そうですね。

ここで、ちひろさんが理壱さんとの結婚を決めた理由を話し始めた。
そしてそれを聞いた理壱さんが「大事なことを思い出した」と言って話し始めた。

あ、さっきはちょっとペラペラした言葉を伝えちゃったんですけど、大事なことを思い出しました。結婚したかった理由の根本の部分、小学生の時にありました。
小学校4年生か5年生のとき、家庭科の授業で自分のライフプランを立てよう、みたいな授業があったんです。「私が30歳になったら」とか「おじいちゃんになったら、おばあちゃんになったら」ということを想像して書いていくという授業です。
結婚して、仕事して、子どもが生まれたよとか、みんなは普通に書いてたんですけど、僕はその時、目の前が真っ暗になったんです。みんなは書けるのに僕は書けないと。

僕はそのとき女の子として生きていました。でも心は男の子でした。「自分は結婚をしちゃいけないんだ」と思ったんです。別に結婚するだけが幸せの定義じゃないって今はわかるんですけど、小学生の僕は「結婚できないんだ」とか「好きな人と一緒にいられないんだ」って思ってしまって、目の前が真っ暗になったんです。

真っ暗になった。真っ暗でしたね。「なんでこんな授業があるんだろう?」って、ふつふつと怒りも湧いたし、怒りと悲しみが一緒になったみたいな感じでした。そして「僕はなんで生きてんだろう」って、やっぱり思ったんです。その頃からずっと、常に僕の中には生と死とが、極論なんですけど、あったんですね。

ー小学生の時に自分の性自認は男性だと分かっていたんですね。

分かっていました。でも周りにそういう人はいないし、言えないし、気持ち悪いっていわれるかもとずっと恐れていました。だからその授業でも、普通に嘘を書いて出しました。嘘でも書いて、提出して、笑顔でいたら、まあ平穏に、喧嘩も何もなく、争いごとも何もなく過ごせるから、それでいいやって思っていました。

でも、24歳のときに性別適合手術(乳房切除術+乳頭縮小術)を受けて、25歳で膣式子宮全摘出手術+両側卵巣、卵管摘出術を受けて、戸籍上でも男性になって、結婚っていう選択をできるってなったときに、子どもの頃にはできないと思っていた結婚が、大人になってようやく、僕にとっては夢みたいなことを実現できるんだ、それがすごい幸せなことだって思えた。「幸せになっていいんだ」と思った。それが結構、自分の中で大きかったんですね。

ー結婚して分かったことや、変わったことはありますか?

彼女に受け入れてもらえたのが嬉しかったですね。でも「受け入れてほしい」っていうのは、「入り口」なんですよね。その先には、やっぱり僕も相手を受け入れることが大事なんだな、というか。
結婚するまでは、自分のことを受け入れてもらうことばっかり考えてたけど、僕も相手にちゃんと向き合って、相手のことを受け入れなきゃいけないって思いました。

ー理壱さんにとっては大きな気づきだった?

そうです、そうです。それが新たに生まれてきた感情だなと思って、今更って思ってしまうんですけど。
もちろん、一緒に暮らしていると反発してしまうときはあるんですけど、結婚って、反発しながらも少しずつ受け入れて、お互いの違いを理解し合うという感じですかね。
結婚っていうのはやっぱり大きいですよね。友達として仲良くなるとか、恋人として付き合うとかっていう感覚とは違う。やっぱり違った景色になったと感じます。

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