日日是好日《にちにちこれこうじつ》/森下典子
『日日是好日』の意味を調べると、それぞれ微妙にニュアンスが違う。
いろいろふまえて私の解釈は、どんな日でもいとをかし。
小学生の頃、毎週日曜の13時、習字を習いに一軒の家に通っていた。
当時は貴重な日曜日がつぶれる感覚でしかなかったが、かといって嫌ではなかったと思う。
大人になってからまた習いはじめたのだから。
職場から近いところにみつけた書道教室。
入り口を開けたときの、墨の匂いと濃密な静けさ。
ああ、これが私の原点だ。
書道でお手本通りに書くことを臨書という。
お手本である中国の偉い書家が書いたそれは、正直なところ上手な字とは思えない。
どうせならもっときれいな字、もしくは芸術的にシャシャッと書きたいのに、臨書臨書の繰り返し。
それは点の形、カスレ、筆の軌跡など細部にわたる。
「『ハネ』は、紙から離れる筆の毛先一本までコントロールしてください」
『ハネ』ははねない、と手に覚えさせる。
臨書には技術が凝縮されている。
やがて芸術的なシャッの中にも、痺れるほど美しいものとただ雑なものとの違いがわかってくる。
これが趣味の洗練か。
本書を読むにあたり、副作用が一つだけ。
今すぐお茶を習いたくなる。
それもまた、いとをかし。