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特許のわかりにくさと対応策

弁理士の大倉です。2007年に弁理士登録し、2014年に知財管理のスタートアップ企業root ipを起業しました。

起業を考えたり、実際にスタートアップを立ち上げると、特許とどう向き合えば良いか気になるのではないでしょうか。ネットで調べてもよくわからず、専門家への相談方法もよくわからず、そのまま時が過ぎてしまうケースは多いはずです。

ここでは、弁理士として、自身の起業経験に基づき、スタートアップと特許についての私見をまとめてみます。スタートアップ側の視点と、弁理士側の視点がわかるように書いてみましたので、参考になれば幸いです。


特許がわかりにくい理由

特許について、ネットや書籍で調べると情報が多数でてきます。ただ、特許について全く知識がない方からすると、情報をみても「よくわからん」と感じる人が多いのではないでしょうか。

大前提としては、特許制度はかなり複雑なので、簡単に説明することは難しいです。良質な情報であっても、具体的に自分の状況に落とし込むイメージを掴めないという場合もあると思います。

個人的には、書き手(弁理士)にとっても、特許になるか「よくわからん」部分があることが、わかりにくさの一因だと思っています。もちろん、弁理士には法的に正しい知識はありますし、経験を積めばおおよその予想はできるものです。

特許を認めるかどうかを判断するのは特許庁です。特許庁では審査官という人が審査を担当します。審査官は「審査基準」という共通の基準に沿って審査を行います。

弁理士は、「特許になるかならないかギリギリのライン」を狙って特許を出願します。「より強くより広い範囲の特許」を取るためです。

弁理士がギリギリを狙えば狙うほど、審査官の判断もわかれます。審査官は、ギリギリのラインで判断に迷っても、職務として「認める/認めない」の判断をしなくてはいけません。この判断に、審査官ごとの考え方の差がでてきます。

そのため、弁理士として「これなら大丈夫」と断言することはできません。特許になるかどうかは、まさにケースバイケースです。

弁理士として経験を積むと、上記のような考えが染み付いてきます。そのため、ネットや書籍のような幅広い情報として発信する場合には、どうしても「かもしれない」「可能性がある」といった、曖昧な書き方をせざるを得ません。

わかっていないから曖昧な記載になるのではなく、わかっているがゆえに曖昧な記載になってしまう、ということです。

「結果の出た案件を使って解説する」ことも一案ですが、ここにもハードルがあります。まず、弁理士には守秘義務があります。基本的に仕事の内容は口外しません(できません)。

特許出願の内容は一定期間すると世の中に公開されます。ただ、クライアントの案件をサンプルとしてネットで詳しく解説することには心理的なハードルがあります。他の弁理士の案件について詳述するのも、少し気後れしてしまいます。

上記理由により、書き手(弁理士)は情報をぼかして書くことになり、読み手は「よくわからん」と感じることになります。構造的な原因があるので、簡単には解決できない問題です。

特許について役立つ情報

シンプルで正確な情報としては、公的機関のページを一読すると良いと思います。「特許庁さん、初めての方向けにしては素っ気なさすぎでは?」とも思われますが、無駄のない正確な情報として有用です。

上記を見て、なんとなく特許になりそうだと思ったら、専門家(弁理士、特許事務所、弁理士法人)に相談するのが一番よいやり方だと思います。ネットや書籍のような抽象的な情報ではなく、相談者の具体的な状況に沿って専門家の見解を聞くことができるからです。

特許事務所への相談タイミング

初めての方にとって特許事務所への相談はかなりハードルが高いと思います。弁理士は「何が特許になるか」は断言できませんが、「特許事務所に相談してよいタイミング」はわかります。

下記がまとまっていれば、特許事務所に相談する準備として十分です。

  • 自分しか気づいていない「やりたいこと」(世の中の問題)がある

  • 「やり方」(具体的な解決方法)が浮かんでいる

「やりたいこと」と「やり方」が必要

「やりたいこと」だけだと、まだ時期尚早です。「やりたいこと」に加えて「やり方」が浮かんだタイミングが、相談できるタイミングです。

例えば、「ユーザの好みに合わせて最適な情報を提供したい」という「やりたいこと」があるとします。この情報だけで「特許をとってください」と言われると、弁理士は困ってしまいます。

弁理士としては、「好みとは具体的になんだろう」「最適な情報とは具体的にどんな情報なのかな」など、色々確認したい点があるからです。

弁理士は「やりたいこと」の特許を否定しているわけではありません。日本の特許制度が「その業界の人にわかるようにやり方を書くべし」というルールになっているためです。

「やりたいことはお伝えしたのでやり方は先生の方で適当に考えてください」というケースもあると聞きます。ただ、日本の特許制度では、「やり方を考えた人が発明者(特許権を受けられる人)」になってしまいます。

弁理士の発明ではなく自分の発明にするには、やはり依頼者本人が「やり方」を考える必要があります。

弁理士は何をするのか

弁理士は何をするのかというと、依頼者から聞いた「やり方」が一番強い権利になるように、特許の書類を作ります。

これは、単純にやり方を聞いた通り書き写すのではありません。どうすれば権利範囲が広くなるか、どうすれば権利をとりやすくなるか、水面下でさまざまな想定をしながら書類を作成します。

上述の通り、弁理士は、「特許になるかならないかギリギリのライン」を狙って特許を出願します。「より強くより広い範囲の特許」を取るためです。ここが弁理士の腕の見せ所であり、専門家に依頼することの一番のメリットです。

まとめ

長くなったので、この記事はここまでとして、次は特許事務所の探し方について書いてみます。

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