アーネスト・ヘミングウェイ 『全短編Ⅱ』

★★★★☆

『全短編Ⅰ』を読んだときに、Ⅱを読むかどうかは決めかねてる、と書きましたが、気がついたら読んでいました。
 Ⅱは未発表作品を含んでいます。解説と年譜もあり、Ⅰとは別の意味でも読み応えがあります。Ⅰの方が有名な作品が多いのですが、クオリティは変わりません。ヘミングウェイをしっかりと堪能できます。

 ヘミングウェイというと、無駄を廃し、研ぎ澄まされた文体という印象があり、それは本作にも通じるのですが、『善良なライオン』だけは文体が少し違いました。寓話的というかおとぎ話風です。ヘミングウェイもこういうのを書いていたのかと意外に感じました。
 その他の作品に関しては特に意外性はなかったです。

 ヘミングウェイの作品は面白いのかどうかを考え出すと、思わずうーんと首を捻ってしまいます。なんていうか、ついつい読み進めてしまうページターナーな作品ではないと思うんですよ。Ⅰを読んだときは、作品によってはいくぶん退屈に感じたところもありましたし。
 けれども、文体という点に注目して読むと、非常に興味深いです。率直に言って、おもしろいです。抑制がきいていて、上手い、と感心してしまいます。作品に伏流している哀愁にも独自のものを感じます。

 20世紀のヘミングウェイ以降の作家はみなヘミングウェイの存在を無視できなかった、といった文章を読んだことがあります。それについては非常に深くうなずけます。とにかく、文体の存在感が巨大なんです。これくらい特徴のあるスタイルを確立されると、違ったことをやったとしても影響から逃れられないでしょう。
 ミニマリストたちはすべからく影響下にあると言えるのではないでしょうか。

 収録作品を個別にみていくと、従軍ものが多い気がしました。スペイン内戦の取材班ものが何編かありました。あとは父と子のものもいくつか。

 内容だけをいうと、もちろんⅠの方がよいです。でも、ヘミングウェイの文体をまとめて読みたいという欲求を満たすには、このⅡを手にとっても損はないと思います。未発表作品もあり、思う存分楽しめますから。
 それと、高見浩訳がとてもよいです。

この記事が参加している募集

#読書感想文

187,064件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?