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ぼくの2020 -平凡な非日常を振り返る-  ふだんのカナダ 編

二月

こうしてぼくはホームステイを出た。
ホームステイについては前回のnoteを見て欲しい。

部屋探し
多くのワーホリの人がそうだと思うが、準備期間として1ヶ月のホームステイをするので、その間に部屋探しをしなくてはならない。

肝心な部屋探しはというと、ぼくは約50件近くのオーナーにコンタクトをとって、1年間の拠点として何不自由ない(と思いたい)物件にありつけた。

ぼくが部屋探しで優先したのが以下のこと。
①立地(特徴のあるネイバーフッド )
②ルームメイトに日本人がいない(できればネイティブ)
③家賃(光熱費・ネット代込みで安く)

この部屋探しでの一番の苦労が、コンタクトをとってもほとんど返事がこないということだ。ぼくは多分10件くらいしかもらえなかった。しかも、その内2,3件は詐欺紛いのもの。内見まで行けたのが5件前後だったと思う。
最初はテンプレートを作って、ひたすらにメールを送っていたのだが、途中から作戦を変えて、自分を売り込むような内容にした。これが結果として功を奏した。向こうからしたら言葉も通じるかわからない、変な日本人から連絡が来るのだから心配だろう。そこでぼくは、日本ではこんなことをしていた、趣味はなんだとか、とにかく素性がわかるように、あわよくば「なんだこの面白そうなやつ」を期待して好きな音楽や映画まで記載して、メールをつくることにした。
結局その内容に興味を持ってくれたオーナーの元には立地の問題で入居しなかったが、すでに述べた通り、無事拠点を手にすることが出来た。

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二月のこと
さて、部屋探しの話はここら辺にしておいて、2月はぼくにとってカナダでの新生活のはじまりであり、結果として最後の"いつもの"カナダだった。これからの生活は、常に"いつもだったら〜だった"という言葉と共に暮らすことになる。

とはいえ、資金不足は常について回っていたが、この2月はなんだかんだカナダでの生活を満喫した。ことの初めはネットでたまたま見つけたUberEatsの記事。お金が稼げることと運動不足解消の為として思いつきで、セカンドハンドの自転車を探し回り、Uber Eats配達員の登録をした。
この判断は今後のパンデミックを考えると、我ながら素晴らしい選択だった。この時は、雪の中の凍えながらの配達に毎晩後悔していたが。。

こうして程なく収入源を得たぼくは、週末の朝は幼い頃やっていたスケートをしに公園に通い、暇な時間はレコードショップや家の周辺(リトルイタリーやリトルポルトガル)を散策したりと赤字にならない程度にトロントのダウンタウンでの生活を楽しんだ。
そして、ぼくの憧れでもあり、ワーホリ中に行くと決めていたライブハウス"Mod Club"に行くことにも繋がった。

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結局、二月に行ったこのライブが最初で最後になってしまった。
それは、ぼくの滞在中半分以上がロックダウンしていたという事実もあるが、ライブが出来ないことから、このライブハウスは閉業してしまったことが理由だ。トロントのダウンタウンにあり、世界中から数々のアーティストのライブを実現させ、ぼく自身にとっても最高の夜を送らせてくれたライブハウスの閉業は本当に残念だし、悲しい。

当日券を買いに並んでいた拙い英語のぼくに、「Wolf parade観に来るなんてマジかよ。」って声かけてきたおじさんや、「セットリストを写真に撮らして」とお願いしたら、なぜかピースをして自分も写ろうとしてきたパンクなお姉さんをたぶん忘れないだろう。


二月の一枚

Wolf Parade 『Apologies to the Queen Mary』

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いつか若かったときを思い出して泣いてしまうかもしれないけど

「Wolf Paradeを知っているか?」
この問いは、カナダ滞在の1年間でぼくが出会ったカナダ人に何度もしたものだ。
そして、ほとんどの人がこれに「No」と答えた。

唯一「Sure!」と答えたのは、この同じライブに来ていた後に働くローカルレストランの同僚だけだった。彼の話はまた出てくると思うが、向こうで音楽メディアを運営している。

カナダの人たちはみんなWolf Paradeを聴いてるに違いない、と普通に考えるとおかしい固定概念を持っていたぼくは、この質問の度にがっかりしたのを覚えている。日本であまり知名度がないのは知っていたが、ここまでとは。
ちなみに、『I'll Believe in Anything』はArcade FireやHer Space Holidayなど多くのアーティストにカバーされている名曲だ。

というぼくも特別熱心にWolf Paradeを追っかけていた訳ではない。だが、カナダに来て最初のライブに彼らを選んだのはこの『Apologies to the Queen Mary』が猛烈に好きだったからだ。
もちろんスケジュール的にちょうど良かったのもある。

当日。フロアに物販もバーカウンターもある、このライブハウスMod Clubは文字通り"熱気"に包まれた。月並みの表現で気が引けるが、まさにこの使い古された言葉がぴったりなライブだったと思う。

彼らの音楽はインディーロック。それも、近年よく耳にするお洒落なやつではなく、泥臭さを感じるやつである。
彼らにあるのはスマートさでも、メロウなサウンドでもなく、"熱"だ。
ぼくは、この"熱""若さ"だと思っていたが、どうやら違うのかもしれない。

ぼくが大学生の頃、夏休みを利用して月に40本以上の映画を観たことがあった。その中の1本『ストレイトストーリー』で主人公がこんなことを言っていた。

「歳をとってよかった事は、経験を積んで実と殻の区別がつくようになった事。歳をとって最悪なのは、若かった時を覚えている事だ」


このセリフはぼくの中でとても印象に残っていて、歳をとる、大人になるということはこういうことなのかと納得したのと同時に、いつか"熱"を失って、"若さ"に嫉妬する時がくるのは寂しく思えた。
でも、若さを諦めきれずにもがくのは、カッコ悪いような気がしていた。

あの映画を初めて観てから10年が経つ。世間から見たらまだまだ若造かもしれないが、30代になり、自分が若さの中心にいるとは思えない。
でも、いつまでも若者のように、"熱"を持ち続けるのも悪くないのかもしれない。

昔と変わらずロックスターのように"熱"を持ち続けるWolf Paradeのこの日のライブは、純粋にカッコよかったから。



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