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建築家ザハ・ハディド氏の功績


現代建築をリードし続けてきた建築家のザハ・ハディド(Zaha Hadid)氏が3月31日、心筋梗塞で死去した。

突然の悲報は世界中に衝撃を与え、多くの建築家たちから続々と哀悼の意が送られた。

著名な建築家リチャード・ロジャース氏は英紙ガーディアンに対し「過去数十年間、彼女ほど衝撃を与えた建築家はいなかった」と語っている。

数々の傑作を世に残し、現代建築に多くの影響を与え続けてきたザハ・ハディド氏。

彼女はいかにしてその偉大な功績を成し遂げていったのだろうか。彼女の歩んできた経歴からその疑問を解き明かしてみたい。

ザハ・ハディドは1950年、イラクの首都バグダッド生まれた。

1972年に渡英し、ロンドンの建築専門大学「AAスクール」に学び、77年に卒業。

1979年にはロンドンに事務所を開き、建築家として本格的な活動に入っていく。

その才能が認められたのは4年後の1983年。

香港の高級レジャークラブの建築コンペで最優秀を受賞し、世界中にザハ・ハディドの名が知れ渡ることになった。

しかし、力学的な合理性を排除したような彼女のデザインは設計の段階で実現が難しく、採用されることはほとんどなかった。

その頃の彼女は「ペーパーアーキテクト(紙上の建築家)」、「アンビルト(建てられない建物)の女王」などと評され、日の目を見ることはなかった。


そんな彼女に転機が訪れたのは1993〜94年に手がけたドイツのヴァイル・アム・ラインのヴィトラ消防署のプロジェクト。

コンクリートの平面で構成されたこの作品で、彼女は概念的で抽象的なデザインをベースに完璧な実用性を兼ね備えた作品を完成させ、世界的な注目を浴びることになった。

その後、2000年以降からはコンピューターによる設計技術が向上し、不可能だと言われていた彼女の作品が次々に設計され、建築されていく。

2004年には建築界のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」を女性で初めて受賞。

多くの国や地域で「建築のモニュメント」を手がけるようになり、世界的な建築家としての名声を不動のものにした。


ザハ・ハディド氏の経歴を通して浮かび上がってくるのは、他の著名な建築家とは明らかに異なった姿勢で建築に取り組んできたという事実だろう。

一般的な建築家は、「建築物」として成り立たせることを前提として、デザインを手がける。

そこでは「力学的な合理性」という一定の制約が必然的に課されていると言える。

しかし、ザハ・ハディド氏の手がける作品にはそうした制約が一切なく、純粋に「デザイン」そのものが土台となって作品が生み出されていく。

その作品の一つ一つには、「あらゆる規範から逃れた芸術的な美こそが最高の建築物になりうる」という強烈なメッセージが込められているようだ。


もちろん、その理想はテクノロジーの進化なくして実現不可能だった。

コンピューターが進化した2000年以降、3Dで図面を再現する技術が急速に発展した結果、設計の労力は大幅に軽減されていく。

その結果、ザハ・ハディド氏のデザインの特徴であった複雑な形状や曲面なども、手作業で行うよりもはるかに容易かつスピーディに実現することが可能になった。

多くの建築家がさほど注目しなかった中で、ザハ・ハディド氏がそのデジタルテクノロジーのいち早く注目し取り入れていったことは、その他の著名な建築家たちと大きく異なる点だった。


だが、ザハ・ハディド氏の功績を考えるとき、従来の「建築のあり方」を逆転させ、根本から変えてしまったこと自体を忘れてはならないだろう。


これまで「デザイン」は「芸術」とは異なるものとしてとらえられてきた。

「デザイン」はあくまで実用的なものであり、そこには誰かの役に立つことが前提とされてきた。

建築物はそれゆえにある程度の芸術性を持ち合わせても、あくまで力学的な合理性の土台の上で成り立っていたと言えるだろう。


ザハ・ハディド氏の作品が「衝撃」的なのは、まさにそうした常識を逆転させ、「芸術性」を土台にしてデザインし続けたことにある。

制約から解き放たれた建築物はより自由な形状へと変化し、生々しいほどの多様性を生み続ける。

テクノロジーの進化とともに自らの作品でそれを証明し続けたことこそが、ザハ・ハディド氏の最大の功績だったと言えるだろう。


合理性が支配していた時代に終止符を打ち、芸術とテクノロジーが融合した新しい時代を切り開いたザハ・ハディド氏。


その偉大な功績は、時代を経てもなお語り継がれていくに違いない。







参考:

朝日新聞ニュース

http://www.asahi.com/articles/ASJ4100QLJ30UHBI01S.html

女性建築家、ザハ・ハディドが遺したもの

http://wired.jp/2016/04/03/tracing-legacy-zaha-hadid/

ザハ・ハディド氏が世界に残した作品

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldnews/15/040100544/?bpnet

天声人語

http://digital.asahi.com/articles/DA3S12290567.html?rm=150

ザハ氏の建造物に大野氏「攻めの流動性、抜群のセンス」

http://www.hochi.co.jp/topics/20160401-OHT1T50234.html

ザハ・ハディド氏死去 建築家から続々と哀悼の意

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00320507.html

「彼女ほど衝撃与えた建築家いない」 悲報に驚き、称賛の声も ハディド氏拠点の英国

http://www.sankei.com/world/news/160401/wor1604010008-n1.html

3DCADを使うメリット

http://d-engineer.com/3dcad/3dcaddekiru.html


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