R20指定の雪国
「ヘンタイ」という言葉は「ツナミ」と同様、海外でそのまま通じるらしい。どうやら日本固有の文化として認知されているようだ。
日本人として、嬉しいやら哀しいやら、複雑な心境だ。
「ヘンタイ」の国、日本。
その認知を世界にひろめた立役者のひとりに、川端康成の名を挙げたい。
私見によると、川端は世界公認の変態作家だ。
川端は1968年にノーベル文学賞を受賞している。
その理由は、
受賞理由は、「日本人の心の精髄を、すぐれた感受性をもって表現、世界の人々に深い感銘を与えたため:"for his narrative mastery, which with great sensibility expresses the essence of the Japanese mind."」で、対象作品は『雪国』『千羽鶴』『古都』と、短編『水月』『ほくろの手紙』などであった。
【Wikipediaより】
ここで、"世界の人々に深い感銘を与えた"名文を『雪国』から引用したい。
『雪国』は有名な書き出し、
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
【『雪国』 川端康成 新潮文庫 p5】
で始まる。
主人公の島村は汽車に乗っているわけだ。
なぜ、汽車に乗っているのか。
199日前に肉体関係を持った女性、駒子に会いにいくためだ。
で、汽車にゆられながら駒子のことを追想する。
もう三時間も前のこと、島村は退屈まぎれに左手の人差指をいろいろに動かして眺めては、結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている、はっきり思い出そうとあせればあせるほど、つかみどころなくぼやけてゆく記憶の頼りなさのうちに、この指だけは女の触感で今も濡れていて、自分を遠くの女へ引き寄せるかのようだと、不思議に思いながら、鼻につけて匂いを嗅いでみたりしていたが、ふとその指で窓ガラスを引くと、そこに女の片眼がはっきり浮き出たのだった。
【『雪国』 川端康成 新潮文庫 p7-p8】
これが、「日本人の心の精髄を、すぐれた感受性をもって表現」した文章であり、「世界の人々に深い感銘を与えた」名文である。
日本=ヘンタイ だと認識されても仕方がない。
じつに卑猥な描写だ。
「女の触感で今も濡れてい」る指を、
「いろいろに動かして眺め」るだけにとどまらず、なにを思ったか、
「鼻につけて匂いを嗅いでみたり」するなんて。
けしからんではないか。
しかもそんな変態行為を、こともあろうか公共の場、汽車の中で演じている。ぶっ飛びすぎだ。男でも引く。まして女性ならなおさらだろう。こんな変態男が近くの座席にいたら、車両を移動するにちがいない。
さて、イカれ男、島村の変態ぶりはこれだけにとどまらない。
ひとりで勝手に淫らな妄想にふけり、指を動かしたり、匂いを嗅いだりして、悦に入っているぶんにはまだいい。周囲の人間は放っておけばいいのだ。公序良俗ではあるが、まあ、実害はない。
ところがこのあと、島村は直接的なセクハラ行為におよぶ。
汽車から降りた島村は、駒子のいる温泉宿に到着する。
そして駒子と再会して、開口一番、島村は、
「こいつが一番よく君を覚えていたよ。」と、人差指だけ伸した左手の握り拳を、いきなり女の目の前に突きつけた。
【『雪国』 川端康成 新潮文庫 p14】
どうかしている。
どうかしているよ。
これが、「日本人の心の精髄」なのだろうか。
もはや狂気の沙汰だ。
久しぶりに会った女性にいきなりこれでは、救いようがない。
駒子もさぞかしドン引きだろう……と思いきや、この駒子、尋常な女ではなかった。島村に卑猥な指を突きつけられた彼女はどうしたか。
「そう?」と、女は彼の指を握るとそのまま離さないで手をひくように階段を上って行った。
炬燵の前で手を離すと、彼女はさっと首まで赤くなって、それをごまかすためにあわててまた彼の手を拾いながら、
「これが覚えていてくれたの?」
「右じゃない、こっちだよ。」と、女の掌の間から右手を抜いて炬燵に入れると、改めて左の握り拳を出した。彼女はすました顔で、
「ええ、分ってるわ。」
ふふと含み笑いしながら、島村の掌を拡げて、その上に顔を押しあてた。
「これが覚えていてくれたの?」
【『雪国』 川端康成 新潮文庫 p14-p15】
「これが覚えていてくれたの?」
本心から言っているのだろうか。だとしたら相当に危険である。
島村の技巧がそれほど突出していたのだろうか。
仮にそうだとしても、こんなあけすけに表明しては品がない。
「ふふと含み笑いしながら」島村の手に顔をつけているさまは、かなり不気味である。
並みの男なら引く。この女、ちょっとあれだな、と。
しかし島村も変態である。
「右じゃない、こっちだよ」などと平然として応じている。
再会早々、ふたりで何やってるんだ。
冒頭からとんだ「日本人の心の精髄」を見せつけられたものだ。
ここまで、文庫本のページ数で、まだほんの10ページほどである。
さきが思いやられてしかたがない。
川端の変態ぶりはまだまだ続くが、今回はここまでにする。
それにしても、文豪というのはおかしなのが多い。
以上。
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