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何度だって私を強くする、YUI『GLORIA』。

私が死んだら、葬式でYUIの『GLORIA』を流してほしい。お葬式でJ-POPが流れるはずなんてないんだけど、そう頼みたくなるくらい、私の人生はこの歌とともにある。


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中高生のとき、YUIの歌が流行っていた。

ドラマ・映画・アニメ・CMと、YUIの楽曲はタイアップに引っ張りだこだった。女の子たちはみんな彼女の歌が好きだったし、カラオケでは誰が『CHE.R.RY』を歌うか争奪戦が繰り広げられていた。ライブに通うほどのファンではなかったけれど、テレビやラジオから流れてくるギターサウンドとと印象的な声は、当然私の耳にも残っていた。

流行りに敏感な姉がYUIのCDを何枚か購入していたから、拝借してウォークマンに入れた。『I LOVED YESTERDAY』は特にお気に入りのアルバムで、通学のお供になった。今は亡き亀戸のサンストリートを練り歩きながら、何度もリピートした。


2009年の暮れの頃だったろうか。YUIの曲がベネッセコーポレーションの「進研ゼミ高校講座」のCMソングに起用された。それが冒頭に記した『GLORIA』である。当時、私は高校3年生で、受験生だった。『GLORIA』の力強いメロディーと歌詞に、心を射貫かれた。「試験会場に向かう時に、この曲が聴きたい」。私のための歌だと思った。

翌年1月、『GLORIA』のCDが発売されると、母に頼んで近所のCDショップに買いに行ってもらった。CDを買いに行く時間すら惜しかった。絶対に受かりたい大学のあった私は、すべての時間を勉強に捧げていた。母は「買ってきたよ」とCDを渡してくれて、私は「ありがとう」と受け取った。代金を請求されることはなかった。きっと、プレゼントだった。「勉強を頑張っているから」「応援しているよ」とは言われなかったけど、そういうことだったんだと思う。

心に決めた通り、試験当日は、ウォークマンでこの曲を聴きながら会場へ向かった。寒空の下、ひんやりとした空気が頬をなでる。緊張で身体がこわばっていた。でも、『GROLIA』を聴いていると、不思議と気持ちがとした。メロディーに合わせて歌詞を口ずさむ。

負けてないやいやいやい
輝く先に GLORIA
近づいてるはずさ
Cryやいやいやいやい
眠れない夜にひとり
膝を抱え込んでも
Baby 泣いてる時間はない
(GLORIA/YUI)


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「YUIの歌のおかげで第一志望に合格できました」と書けたらカッコイイのだけど、第一志望の大学には落っこちた。私の努力不足である。滑り止めで受験した大学に進学して、一般的なキャンパスライフを送ることになった。

一度だけ、『GLORIA』をステージの上で歌ったことがある。大学1年生の時、わずかな期間だったけど軽音サークルに所属していた。バンドのメンバーにお願いして『GLORIA』を演目に入れてもらったのだ。

初心者の多いサークルで、私にとっても初めてのバンドだった。スタジオ練習も先輩が見に来てくれたし、カラオケでもたくさん練習した。ライブでは、『GLORIA』の「ユメじゃないやいやいやいやい」の部分を「いやいやいやいやーーーい!!!」ってみんなで歌うのが、最高に楽しかった。盛り上がりすぎた。ライブは大成功だった。

『My Generation』『HELLO ~Paradise Kiss~』など、他にもYUIの曲を何度かライブで歌った。お世辞にも歌が上手いとは言えないけれど、振り返ってみると、生涯でいちばん好きな曲をバンドで演奏できたのは、とても幸せなことだった。



あまり音楽に詳しくないから、リズムがどうとかサウンドがどうとかは語れない。でも、私はYUIの詞が好きだ。ライブで歌うためには詞を覚えなければならない。何度も楽譜とにらめっこした。詞を眺めたり、歌ってみたりしながら、「これってどんなシチュエーションの歌なのかな」と勝手に想像するのが至福の時間だった。

YUIの詞の魅力は、『CHE.R.RY』にあるような思わずキュンとしてしまうフレーズだけではない。現代社会への皮肉を込めた歌詞は共感せずにはいられないし、「どんなに過酷だろうと夢に向かって生きていく」という力強い決意を感じる歌詞には、勇気をもらう。


たとえば、2ndアルバム『CAN'T BUY MY LOVE』に収録されている『How crazy』。当時16歳だった私は、耳に飛び込んできた歌詞に驚いた。

努力を続けた学生だって 結果にならなきゃ 家族はきっと 悲しむ
世渡り上手が うまくはいっても そんなの尊敬できない人生 um Baby
矛盾ばっかな感情を いったい いつまで抱えて生きてゆくのでしょう?
(How crazy/YUI)

綺麗事を歌ったほうがヒットするだろうに、自分の感じたことを真っ直ぐに音楽にのせて表現するYUIが、好きだ。他のアーティストとちがって簡単に綺麗事を言わないから、YUIに惹かれたのかもしれない。


2009年に発売された『again』は、リフレッシュ休暇を経て、活動再開後に発表した最初のシングルだ。ロックなギターサウンドに、パワフルな歌詞がよく似合う。音楽の道を突き進んでいく、YUIらしさが詰まっている一曲だ。

叶えるために
生きてるんだって

忘れちゃいそうな
夜の真ん中

無難になんて
やってられないから

…帰る場所もないの

この想いを 消してしまうには
まだ人生長いでしょ?

懐かしくなる
こんな痛みも歓迎じゃん
(again/YUI)

余談だが、私は2回しか会っていない人に「私たち、友達だよね」と言われたことがある。人付き合いが苦手な私は、「友達」と言ってくれたことがうれしくて舞い上がってしまった。でも、その人にはあっさりと裏切られた。『again』のフレーズが頭の中に流れる。

いらないウワサにちょっと
初めて聞く発言どっち?

2回会ったら友達だって??
ウソはやめてね
(again/YUI)

そのあと、SNSで知り合った別の人にも「私たち、友達だよね」と言われたことがある。警戒した。一度も会ったことがないし、たいして話したこともないのに、どうして「友達」なんて言えるんだろう。その人にも、やっぱり裏切られた。軽々しく「友達」という言葉を使う人は信じられない。『again』のこの歌詞は、身をもって深く共感している。


成功者の声高々に
語るエピソード
他人事みたい
(GLORIA/YUI)

『GLORIA』のこの歌詞も好き。世の中は成功者の声で溢れかえっている。性格の悪い私は、誰かの成功体験を聞くのがきらいだ。ただの自慢話はうんざりしてしまう。YUI自身も、デビュー前や駆け出しの頃、たくさんの成功体験を聞かされてきたのだろうか。現実感のないその話を「他人事みたい」なんて思ったのかもしれない。


推測でしかないけれど、YUIの曲を聴いていると、たまに「これが本音なのかな」と想うことがある。

ドラマや映画のタイアップであれば、自身の音楽性よりテーマやストーリーに合う詞を書かなければならないと聞く。本当かどうかは知らないけれど、タイアップがなければ曲を出せないというもある。そうしたら、どこで自分の音楽を披露するんだろう。インディーズのほうが自由だったんじゃないのか。それに苦悩して、音楽活動を休止してしまう人もいるらしい。もちろん、タイアップの中で自分らしさを表現できる人もたくさんいるのだろうけど。

YUIが挿入歌を提供したフジテレビ系ドラマ『夏の恋は虹色に輝く』は、松本潤さん・竹内結子さんが出演しているラブストーリーだ。二人がすれ違う場面でしんみりとしたYUIの挿入歌『Please Stay With Me』が流れ、より切なさを誘う。しかし、

会いたいと
ただ願うだけで
こんなにも
涙あふれるから…
(Please Stay With Me/YUI)

と、恋の感情を歌っているのに、2番ではこんな歌詞が出てくる。

プライド才能聞こえない
夢のまま終われない
(Please Stay With Me/YUI)

唐突に現れた「才能」「夢」という言葉にドキっとさせられる。『夏の恋は虹色に輝く』の主人公・楠大雅は二世俳優で、売れない役者だ。このフレーズは大雅のことを歌っているとも考えられる。でも私は、「YUIがこの歌に隠した本音なんじゃないか」と、いらない深読みをしてしまうのだ。

メッセージ性の強いYUIの綴る詞は、どこまでも感情移入させられる。


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大学受験で私を支えてくれた『GLORIA』は、それからもことあるごとに私を応援してくれた。どうしようもなくピンチに追い込まれた時、私は決まって『GLORIA』を聴く。

自宅と最寄り駅は歩いて15分ほど。この15分は、いつもウォークマンで音楽を聴いている。電車の中はスマホをいじってしまうことが多いけど、もくもくと歩くだけのこの時間は、音楽を聴いて気持ちを整えるのにちょうど良かった。

流行りや季節、気分によって選曲が変わる。ウォークマンは、私の好きな曲が詰まっている宝庫だ。「秋といえばこれ」「あのアーティストの懐かしの名曲が聴きたい」「今日は大切な仕事だから気分が上がるあの曲」。リスナー私のリクエストを、パーソナリティ私が叶えてくれる。

就職活動が行き詰まった時、仕事で窮地に陥った時、作家になる夢を諦めそうになった時――……、ウォークマンを探る私の指は、無意識に『GLORIA』を選ぶ。

精神状態がメタメタなのに逃げられない場面が、世の中には幾度もある。「つらいなら逃げてもいい」と言ってくれる人もいるけど、いま、私がすべてを放り投げたら、後輩や同僚を困らせる・クライアントに迷惑がかかる・会社が潰れる。周りの人のことなんてどうだっていいって思ったって、自分の人生がかかっている時もある。ここで諦めたら何もかもが終わる。これまで頑張ってきたのに、こんなカタチで終わらせていいの??

本当は何もかも投げ出したい。もう無理。逃げたい。無理、無理、無理、無理だけど、でもやっぱり、頑張らなきゃ。諦めたくない。頑張りたい。私と、私以外の誰かのために。もう一度。もう一度。

そんな時、私は祈るような気持ちで『GROLIA』を聴く。つらかった受験も、なかなか内定がもらえなかった就活も、完成間近のパンフレットが急に最初からやり直しになった時だって。この歌が私を支えてくれた。『GROLIA』を聴くと、もう一度頑張れる気がする。『GROLIA』は、私を裏切らない。

ユメじゃないはずよ
報われると信じてる
本当は怖いけど

Cryやいやいやいやい
くやしいキモチがあるから
Get glory day
(GLORIA/YUI)


これから先の人生も、幾度となく困難にぶつかるんだろうと思う。「無理」「逃げたい」「もうやめたい」って、誰にも見えないところで弱音を吐くんだろう。でも、でも、でも、やっぱり諦めたくない。負けず嫌いな私は、何回壁にぶつかったって、もう一度頑張ろうとするはずだ。

もう一度、自分を奮い立たせるために。
何度だって、自分を奮い立たせるために。
私は『GLORIA』を聴く。

これが私の人生のテーマソング、YUI『GLORIA』


*若かりし頃の林遣都さん、岡本杏理さんが出演している『GLORIA』のミュージックビデオ。YUIと言えばこのお二人ですよね。

このnoteはこちらのお題によせて書きました。

#私の勝負曲

※ここに書いてあることはすべて私の推測であり、YUIさんご本人が言っていることではありません。

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