見出し画像

【短編】 アイドルオーディション

 心の醜い少女は、毎日、花に水をやります。
 ある本に、花を育てると心が美しくなると書いてあったからです。
「毎日、あたしにお水をくれてありがとう」
 蕾がほころびはじめた花は、心の醜い少女に感謝を伝えました。
「これからあたしは花びらを開いたあと、次の種をつくって枯れていきます。今度はあなたが花を咲かせて下さい。それが、あたしの願いです」
 そのとき、強い風が吹いて、一枚の紙が少女の顔に貼り付きました。
「あら、アイドルオーディションのチラシですね。これから花を咲かせる、今のあなたにピッタリ」
 花は嬉しそうにそう言いますが、心の醜い自分にアイドルなんてとても無理だと少女を思いました。
「あたし、あなたが水やりのときに口ずさんでいる歌がとても好きです。オーディションでそれを歌えば絶対に合格できますよ」
 
 そんなわけで、心の醜い少女は、花の言葉に背中を押されてアイドルオーディションを受けたのですが、結果は落選でした。
 しかし、オーディションから三日後に、ある芸能事務所から電話がかかってきて、うちでデビューしてみないかという話を持ちかけられました。
 心の醜い少女は、半信半疑で事務所へ話を聞きにいくと、王冠のようなものを頭に乗せた人が現れました。
「君は一カ月後にデビューすることになっている」
 王冠の人は、そう一方的に宣言すると、少女を事務所のレッスン室に放り込みました。
「一カ月後にまた会おう。そのときに君がアイドルとして覚醒していなければ、私も事務所も破産して終わりだがね。ハハハ」
 少女は、事情がよくわからないままレッスン室に監禁され、鬼のような講師から歌とダンスのレッスンを受けました。
 
〈中略〉
 
 半年後、心の醜い少女は三十分だけ何とか休憩をもらって、かつての花壇へ足を運びました。
 毎日水やりをしていた花は枯れて横たわり、地面に埋もれかかっていました。
「わたしはアイドルになれたけど、一秒も休む暇がなくて、あなたに水をやれなくなってしまったの。ごめんね」
 少女の落とした涙が地面に触れると、そこから一本の花がにょきにょきと生え、次の瞬間に、辺り一面が花畑に変りました。
「おめでとう!」
 声と拍手のする方を見ると、事務所の王冠の人や鬼講師、少女の心を醜いと言った同級生やそれに同調した同級生たち、無関心な担任の先生、父親と母親、近所にあるコンビニ店員のお婆ちゃん、三歳の頃出会った宇宙人、大統領の……

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?