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【短編】 世界的な・・・

 よく物を失くす女性の依頼だった。
「いつ何を失くしたのかを確認するために、あたしを監視して欲しいのです」
 まあ、失くしたものを探すのは探偵の仕事だけど、これから失くすかもしれないものについてはちょっと……。
「でも、できるだけあたしが気にならないような形でやって欲しいから、やはり尾行もできる探偵さんが適任かと」
 私は断ろうと思ったが、他に仕事も無かったのでとりあえず引き受けることにした。
 
 次の日の早朝、私は依頼主の女性の部屋を訪ねた。
 女性はこれから外出するということだったので、私は少し距離を取って歩きながら尾行を開始した。
 十分ほど歩いて移動すると女性は公園に入っていき、そこに集まっている人々に挨拶をした。
 ラジオ体操でもするのかと思ったら、彼らの一人が野球ボールをやや高めに投げて、それを皆で眺めるということをやり始めた。
 何度も繰り返し行われるので参加者の一人に質問したら、投げられたボールの描く放物線を皆で眺めているのだという。
「変な集まりだと思われるかもしれませんが、最近、放物線が世界的に静かなブームになっているのですよ」
 参加者の言葉に私はへえと関心してしまったが、肝心なのは女性が物を失くさないかどうかだ。
「あなたも一つ、ボールを投げてみませんか?」
 私は不意にボールを手渡されたので相手に返そうとしたら、なぜか手が勝手にボールを
投げていた。
「おお、なんと美しい!」
 公園に集まっていた人々は、私に向かって拍手をしながら涙を流していた。
「探偵さん、あなたが世界に一人だけいるという『放物線に愛された人』だったのですね?」
 
 依頼した女性は私を神のように崇めるようになり、監視の依頼は何となく中止になった。
 女性は相変わらず物を失くすことが多く、そのことが原因で会社を首になったのだという。
 それで何となく責任を感じて、女性を探偵事務所で雇うことになったのだが、ある日どうしてだか分からないけど、事務所の資金を彼女が全部失くしてしまった。
 二人で途方にくれていると、テーブルの上に転がっていた野球ボールが突然二つに割れて、中から赤ん坊が出てきた。
「天上天下唯我独尊!」
 赤ん坊はそう言うと、すくすく成長して世界的な宗教を立ち上げ、多くの人々を救った。
 探偵事務所は、教祖が誕生した聖地として多くの人々が訪れるようになったが、私と女性は今でも、その事務所で探偵の仕事を細々続けている。

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