【短編】 ビー玉と正月と折れた翼
とりあえずそこへ置かれたものの中に、私の命がありました。
段ボールに放り投げられたものは廃棄されることになっていて、今回は私も段ボール行きかと思っていましたが、何とか生き残ることが出来ました。
私はただのビー玉なので、そこらへんに転がっているしか能が有りませんし、興味が無くなれば捨てられても仕方ありません。
その人は断捨離と称して、毎年正月に、いるものと、いらないものを分ける作業をしているのですが、そのどちらともつかないもののことでいつも悩んでいます。
どちらともつかないものは、とりあえず灰色のプラスチックの箱に放り込まれ、押入れの一番奥に押し込められます。
でも私は、暗い押入れの中が好きで、安心します。
灰色のプラスチックの箱には、ビー玉の私のほかにも色んなものが入っています。
変身ベルトや熊のぬいぐるみ、ルービックキューブみたいな子どもの頃の玩具もあれば、ラブレターやアイドルのCDなどの思春期のもの、そして翼の折れたフィギュアや背表紙から半分に割かれた本もあります。
なぜ本が半分に割かれたのか気になるところですが、灰色の箱の中では、お互いに事情を聞かないことが暗黙のルールになっていました。
「その本の片割れを持った奴は異世界にいて、友情の証として大切に持っているが、われらのご主人様はその記憶を失くしている。でもなぜか気になるから捨てられずにいて……」
ルービックキューブはそんな空想話をするのが好きで、相手の気持ちを考えない無神経なやつなのですが、勝手な空想ならまあいいかと皆聞き流しています。
「アイドルのCDだって、本当は地球を破壊する命令コードを発動させるための記録ディスクかもしれないし……」
翼の折れたフィギュアは溜息をつきながら、手に持った剣をルービックキューブに突き刺しました。
「静かに眠りたりから、お喋りはやめろ。これ以上喋るなら、お前のキューブを一つ一つバラバラにする音を聞かせてやるぞ」
「ご、ごめんなさい。もう黙ります。でもフィギュアの姉さんの折れた翼は、熊のぬいぐるみの中にあるんだよ。これ空想じゃなくて本当だから」
熊のぬいぐるみも、ご主人様に折れた翼を体に埋められたことを、ぶるぶる震えながら認めました。
「もういいから黙れ!」
翼の折れたフィギュアは、剣を鞘におさめながら言いました。
「熊が、折れた翼を守っているならそれでいい。それで私は安心して眠れる」
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