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その他の不思議な小説

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#短編小説

【短編】 世界を救うというのは

 朝起きると、背中に違和感があって大きなコブのようなものが膨らんでいた。  部屋の鏡で見たら、コブには悪魔の顔や体のような形が浮き出ている。  今日はもう仕事に行けないなと思って会社に電話をしたあと、私はとりあえず冷蔵庫を開けて牛乳を飲み、ベランダの鉢植えに水をやった。 「うううっぱあ……。やっと出られたわ。ここはどこなの?」  私の背中を切り裂いて出てきた魔法少女のような少女は、血まみれになりながらそう言った。 「あ、大量出血した人が倒れてる」  私のことだ。 「ごめんなさ

【短編】 コンビニにはもう行かない

 十年ぶりにコンビニに入ったら、出口が分からなくなった。  私は、トイレの用で入ったのだけど、何か買わないと悪いと思ってビスケットを探していたら迷ってしまった。  三十分うろうろしても誰とも出会わないので、どうしたものかと悩んだ末、私は携帯電話でコンビニの電話番号を調べて掛けてみることにした。   「はい、ファイブトゥエルブ○○店です」 「あの、今店内にいる者ですが、何というか、その迷ってしまって……」 「ああ、遭難者の方ですね。本社のほうへお繋ぎしますので……」  意外とあ

【短編】 セルフカットがおすすめ

 私の髪の毛は、この九十年で十メートル以上の長さになっていた。    髪を切ってくれる店へ最後に行ったのは九十年前の十五歳の頃だし、その店はきっともう無いだろうと思っていた。 「中華飯店の娘娘です。出前のご注文ですか?」 「あの、髪を切って欲しいのですけど、中華飯店なら無理ですよね……」 「いえ、うちの店長は九十年前にカリスマ美容師だったみたいで、髪を切って欲しい人が電話してくるかもしれないと接客マニュアルに書いてあって、その」  電話の向こうにいる店員は、興奮気味にそう話す

【短編】 椎名檸檬の絶望

 檸檬は、庭にあるレモンの花が咲いているときに産まれたから檸檬と名づけられました。 「じゃあそのとき咲いていた花が林檎なら、わたしの名前は林檎になってたの?」 「まあそうかもしれないし、そうじゃないかもしれないけれど、うちの庭にはレモンの木しかないから」  檸檬に檸檬という名前を付けた人は、庭の見える縁側で、ゆっくりお茶を飲みながらそう言います。 「このレモンの木は、百年ぐらい前にひいひい爺さんが植えたものらしい。好きな女の子のカバンから落ちたレモンをその子に返そうとしたら、

【短編】 廃校と少女と、午後の音楽

 とくに何もすることのない午後、僕は真っ白なCDから流れる音楽を日が暮れるまで聴く。  真っ白なCDは、広い体育館の中にディスク剥き出しのままで無数に積みあがっており、どれも題名や音楽家の名前は書かれていない。  体育館は、廃校になった学校の校舎とセットになっているものをゼロ円で買った。  周辺に誰も住んでいないから不動産としての価値が低く、無数にあるCDという廃棄物の処理に困ってゼロ円という価格になったようだ。    学校を買ってから三年後、校内を歩いていると、廊下に髪がボ

【短編】 ビー玉と正月と折れた翼

 とりあえずそこへ置かれたものの中に、私の命がありました。  段ボールに放り投げられたものは廃棄されることになっていて、今回は私も段ボール行きかと思っていましたが、何とか生き残ることが出来ました。  私はただのビー玉なので、そこらへんに転がっているしか能が有りませんし、興味が無くなれば捨てられても仕方ありません。  その人は断捨離と称して、毎年正月に、いるものと、いらないものを分ける作業をしているのですが、そのどちらともつかないもののことでいつも悩んでいます。  どちらともつ

【短編】 吉田と山田

 吉田はプレゼントのセンスがない。  同じ人物に世界一周旅行のチケットをプレゼントしたかと思えば、蝉の抜け殻をプレゼントしたりと、選ぶ基準が分からない。  世界一周旅行のチケットはネットで調べると五十万円はするらしいが、そんな高額なものを貰っても大抵の人は戸惑うだけだ。  蝉の抜け殻は、風邪に効く漢方薬になるらしいけど、風邪薬の代わりに食べる人なんてまずいない。  吉田になぜこれをプレゼントするのかと理由を聞いても、ポケットになぜか入っていたからとか、いまいちはっきりしない。

【短編】 アイドルオーディション

 心の醜い少女は、毎日、花に水をやります。  ある本に、花を育てると心が美しくなると書いてあったからです。 「毎日、あたしにお水をくれてありがとう」  蕾がほころびはじめた花は、心の醜い少女に感謝を伝えました。 「これからあたしは花びらを開いたあと、次の種をつくって枯れていきます。今度はあなたが花を咲かせて下さい。それが、あたしの願いです」  そのとき、強い風が吹いて、一枚の紙が少女の顔に貼り付きました。 「あら、アイドルオーディションのチラシですね。これから花を咲かせる、今

【短編】 世界的な・・・

 よく物を失くす女性の依頼だった。 「いつ何を失くしたのかを確認するために、あたしを監視して欲しいのです」  まあ、失くしたものを探すのは探偵の仕事だけど、これから失くすかもしれないものについてはちょっと……。 「でも、できるだけあたしが気にならないような形でやって欲しいから、やはり尾行もできる探偵さんが適任かと」  私は断ろうと思ったが、他に仕事も無かったのでとりあえず引き受けることにした。    次の日の早朝、私は依頼主の女性の部屋を訪ねた。  女性はこれから外出するとい

【短編】 ある姉弟の物語

「あたなには、ご兄弟がいますか?」  近所の公園のイベント会場で、パンフレットを抱えた女性が、いきなり私にそう話し掛けてきた。 「はあ、姉はいますが、ずっと疎遠で……」 「じゃあ、他の兄弟姉妹が欲しいと思ったことはありませんか?」  何だか女性の質問が鬱陶しくなったので、私は素っ気ない態度でその場を離れた。  屋台の美味しそうなクレープを買って、公園をしばらく歩いていたら、またさっきの女性が。 「言い忘れていましたが、このイベントは兄弟姉妹の譲渡会なのです。捨てられた兄弟姉妹

【短編】 ちょうどいい距離感

 白い服を着た男が、いつも私の後ろに付いてくるようになった。  顔は黒人男性のように見えるし、ストーカーや探偵にしては目立ちすぎる。 「アイムソーリー。フーアーユー?」  私は、男が気を抜いた瞬間に腕を掴み、とりあえず知っている英語で話してみた。 「あ、俺ふつうに日本語話せますよ」  男が笑顔でそう言うので頭が混乱し、思わずまたアイムソーリーと言って腕を離した。 「俺はダニエルで、あなたを守護するためにやってきた者です。ちなみに、俺の姿はあなた以外の人間には見えていませんから