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【短編】 世界を救うというのは

 朝起きると、背中に違和感があって大きなコブのようなものが膨らんでいた。
 部屋の鏡で見たら、コブには悪魔の顔や体のような形が浮き出ている。
 今日はもう仕事に行けないなと思って会社に電話をしたあと、私はとりあえず冷蔵庫を開けて牛乳を飲み、ベランダの鉢植えに水をやった。
「うううっぱあ……。やっと出られたわ。ここはどこなの?」
 私の背中を切り裂いて出てきた魔法少女のような少女は、血まみれになりながらそう言った。
「あ、大量出血した人が倒れてる」
 私のことだ。
「ごめんなさい。敵の本拠地がある亜空間から抜け出そうとして思い切り拳をつきだしたらこうなっちゃって……」
 
 不思議なことに痛みはそれほどないし、数分もすると出血が止まって傷も治ったのだが、私の背中には、ブラックホールのような空間が広がる大きな穴が空いてしまった。
「まだ仲間の魔法少女がこの中で戦っているから、もう一度あなたの背中に入らせてもらわなきゃいけなくて」
 よく分からないけど、そいう事情ならまあ仕方ないかな。
「ありがとう、これで世界を救えます。あたしは月読治(つくよみなおり)で、魔法ネームはキュアムーン。あなたの名前をぜひ教えて下さい」
 いやあ、私の名前なんて平凡すぎるし……、それよりも今は、背中に大きなコブが出来たり穴が空いたりしたことをどう受け入れたらいいのかってことだけで精一杯で、はは。
「よくわかります。多くの魔法少女も、世界を救ったあと普通の人間に戻れるかというリスクを抱えながら戦っていますから」
 あのう、世界を救うとかいうことは私にはどうでもよくて、明日仕事に行けるかとか、このまま生活を続けていけるかが重要で……。
「ああ、そんなに大きな穴が背中に空いたら、普通の社会生活はいろいろ厳しいですよね……。だったら、あたしたち魔法少女のサポートをする仕事をしてみませんか? 魔法少女に関わる仕事なら、背中に大きな穴が開いてても全然問題ありませんし……」
 
 そういうわけで、私は魔法少女をサポートする仕事に就き、いろいろあって五年後にある魔法少女となんとなく結婚して子どもが産まれることになった。
「最近ね、妊娠で膨らんだお腹に悪魔みたいな顔が見えるの」
 そんなの気のせいだよと私はなだめたが、ある日突然、彼女のお腹を突き破って血まみれの子どもが出てきて言葉を叫んだ。
「ぼくは世界を救うために生まれてきたんだ!」
 これは呪いなのか。

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