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【短編】 ちょうどいい距離感

 白い服を着た男が、いつも私の後ろに付いてくるようになった。
 顔は黒人男性のように見えるし、ストーカーや探偵にしては目立ちすぎる。
「アイムソーリー。フーアーユー?」
 私は、男が気を抜いた瞬間に腕を掴み、とりあえず知っている英語で話してみた。
「あ、俺ふつうに日本語話せますよ」
 男が笑顔でそう言うので頭が混乱し、思わずまたアイムソーリーと言って腕を離した。
「俺はダニエルで、あなたを守護するためにやってきた者です。ちなみに、俺の姿はあなた以外の人間には見えていませんから、安心して下さい」
 
 私は、常に誰かに守られる必要がある特別な人間ではない。
 それに、いつも私につきまとう、白い服を着たダニエルの存在がとても鬱陶しかった。
「あなたは、R&Bなどの黒人音楽が好きだから俺が選ばれたのです」
 そりゃ黒人音楽は好きだけど、ずっと誰かに付きまとわれるのは嫌なんだよ。せめて可愛い女の子ならね。
 
 ダニエルはその後、姿を消し、三日後に十歳ぐらいの黒人の女の子が私の前に現れた(若すぎるけれど)。
「初めまして、妹のダニエラです。まだ修行中の身ですが、命にかえても、あなたをお守りします」
 いや、私のために命なんてかけなくていいし……。それより、兄のダニエルはどうした?
「兄は、あなたに拒否されたことで、自由を百年間奪われる刑罰を受けています」
 は、そんな話、聞いてないんだけど。
「天界の掟は厳しく、兄も十分覚悟していたと思います」
 
 私は納得がいかず、抗議をするために、妹のダニエラに無理やり頼んで天界に乗り込んだ。
「ここは、下界の方が来てよい場所ではありません」
 責任者らしき人は、困惑した顔でそう言った。
「あなたを連れてきた妹のダニエラも、厳重な処罰が必要ですね」
 私は誰かに付きまとわれるのが嫌なだけで、彼にも妹にも罪はない。
「そう言われましても、決まりは決まりですし、元老院に判断してもらわないと」
 じゃあ、元老院に連れて行って欲しい。
「まあ、お望みなら……」
 
 天界から帰ると、結局、私につきまとう存在が、兄妹の二人に増えただけだった。
 しかし、兄妹は次第に普通の人間になっていき、自分たちで住む部屋や仕事を見つけるようになった。
 そのあとも、週に一回は三人で会って、食事をしながら近況を話し合ったりした。
 中学生になった妹のダニエラには彼氏ができたのに、私とダニエルは縁がなくて、二人で溜息をつくばかりだ。

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