【短編】 吉田と山田
吉田はプレゼントのセンスがない。
同じ人物に世界一周旅行のチケットをプレゼントしたかと思えば、蝉の抜け殻をプレゼントしたりと、選ぶ基準が分からない。
世界一周旅行のチケットはネットで調べると五十万円はするらしいが、そんな高額なものを貰っても大抵の人は戸惑うだけだ。
蝉の抜け殻は、風邪に効く漢方薬になるらしいけど、風邪薬の代わりに食べる人なんてまずいない。
吉田になぜこれをプレゼントするのかと理由を聞いても、ポケットになぜか入っていたからとか、いまいちはっきりしない。
山田は吉田の幼馴染で、子どもの頃からうんざりするぐらい吉田からプレゼントを貰っていた。
どこの鍵か分からない鍵や、百七十枚もあるモーツァルト全集のCD、誰も映っていないプリクラの写真、トイレットペーパー、トイストーリー3のすでに公開が終わった映画の未使用チケット……。
トイレットペーパーは公衆トイレで紙が切れていたとき役に立ったが、プレゼントとして渡すのはどうか?
山田は子どもの頃から吉田の変なプレゼントを沢山貰っていたので、プレゼントとはそもそも何かという疑問を幼い頃から抱いていた。
プレゼントとは相手との関係を深めたい、または維持したいときの行為であり、贈る側の勝手な欲求に基づくものにすぎないという結論を、山田は小学六年生のときに得ていた。
吉田がいろいろと変なプレゼントをするのは山田の気を引くためであり、実にかわいい行為じゃないかと。
でも吉田が変なプレゼントを誰彼かまわずやり続けると、ただの変人になって社会から孤立してしまうと山田は危惧し、二十歳のときに『プレゼントのセンスがない人は今すぐ読まないと死ね』というタイトルの本を自費出版した。
山田の出した本は、「タイトルは過激だけど意外とまともなこと言ってる」「今まで読んだ本の中で一番キモイ」「単にタイトルで釣っているだけ」といった意見がネット上に溢れ出し、結果的に十万部を越えるヒット本になった。
増刷の対応に追われていた山田だったが、状況が落ち着いて、ようやく吉田に本を渡す機会を得た。
「あ、その本、先月買って読んだよ。ピエール・ヤマタっていう作者の名前は初めて知ったけど、何だか自分のことが書かれているようで親近感を持てたな」
吉田はそう言うと、カバンから山田の本を出した。
「同じ本を二冊持ってても仕方ないけど、君からのプレゼントなら大切にするよ」
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