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青春小説「STAR LIGHT DASH!!」8-5

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

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第8レース 第4組 拝啓、世界が纏う光へ

第8レース 第5組 夏の終わりの小夜曲

「はぁ? 秋祭りに誘われた?」
 2学期の始業式が終わり、教室に戻ってきた和斗が俊平の言葉に呆れたようにそんな声を上げた。
 俊平は単語帳を捲りながら、コクコクと頷く。
「なんで?」
 クラスメイト達の視線がこちらに向いたことで、声が大きかったことに気が付いたのか、和斗は声のボリュームを抑えて問いかけてきた。
「志筑ぶちょーが瑚花さんに告白したいって言うから」
「……は? それでお前が取り次いだわけ?」
「”誘う勇気なんてあると思うか”って豪語されて」
「それで告白なんかできんのかよ……」
「知らんけど。本人がそれで前に進めるなら、結果は問わねーのかなって思って」
 俊平はめんどくさいと思いながらそう答え、フラッシュ暗記の要領でペラペラと単語帳を捲ってゆく。
「え、なに。それで、なんで、お前まで……?」
「瑚花さんから”2人は嫌だから、シュンくんも来い”って」
「……もう答え出てんじゃん」
「まぁ……そう、なのかな」
 和斗の切り返しに、俊平はごにょごにょと言葉を濁すしかなかった。
 和斗が何かを思い返すように頭を抱え、はぁとため息を吐く。
「なんだこれ。デジャヴュ?」
「へ……?」
「なんでも」
 意味が分からずに首を傾げる俊平に、和斗は呆れたように目を細め、ふるふると首を横に振った。
 2人が話しているところに、水谷を引き連れて瀬能がやってきた。
 暑いからか、今日はひとつ結いで大きな三つ編みにしている。よく髪型の変わる子だ。
 ヒラヒラと手を振って、白い歯を見せて笑う瀬能。
「ホームルーム終わったら、今決まってる文化祭メンバーで顔合わせしたいんだけど、2人は都合どう?」
「オレは大丈夫だよ」
「おれも」
 2人からの回答に、瀬能が満足げに両手を打ち鳴らした。
「はい、じゃ、決まりね。手伝ってもらえる男子連中って都合つきそう?」
「あー……」
「ちょっとちょっと、約束が違うじゃん、細原」
「ごめん。色々あって、すっかり忘れてた」
「えー……」
「2週間以内には」
「わかった。信じる」
 瀬能がジト目で和斗を見つめるものだから、和斗もタジタジでそう答えるしかなかったようだ。
 和斗がこんな風に押されているのも、なんだか珍しい。 
 俊平は少し考えてから、口を開いた。
「それってさ、男子限定?」
「え……? まぁ、アタシらじゃ女子しか都合つけられなさそうだから、男手欲しいなって感じ、かな」
「あのさ、後夜祭に参加する予定の子たちとか、どう? 女子だけど」
「……後夜祭?」
「うん。バンドで参加する予定の子たち。校外の子もいるから校内作業の手伝いは無理かもしれないけど、色々作るものもあるじゃん?」
「ああ、なるほど?」
「水谷さんの作ったお菓子、先週食べてみてもらったんだけど、大絶賛してたから」
 俊平の言葉に、水谷が嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「ほんと?」
「うん。大繁盛間違いなしだって」
「そっか。嬉しい……」
 ほわりと、柔らかい声。つられて俊平も笑顔になった。
「オレ、小物作るとかより、買い出しとか物運び担当したほうが良さそうだし、お願いできそうなら、それもありかなって」
「ふーん。まぁ、頭数は多いに越したことないし、アタシはそれでも別にいいよ」
「りょっかい」
 瀬能が了承してくれたので、俊平は白い歯を見せて笑う。
 その後、瀬能が何か考えるように窓の外を見てから、眉根を寄せて苦笑交じりに口を開いた。
「しかし、谷川さぁ」
「へ?」
「アンタの周り、女子しかいないわけ? 逆に引くんだけど」
「…………」
「モテるのはいいことだけどさぁ」
「あ、綾ちゃん……」
 苦言を呈するような口調に、水谷が慌てて瀬能の口を塞いだ。
 俊平はそう言われてさすがに失笑するしかなかった。
 確かにその通りだ。気がつけば、今やそんな状況。そればかりは言い訳のしようもない。
「人付き合い下手くそなんで」
 冗談交じりに、それでも、心から気にしていることを口にして、俊平は目を細める。
「瀬能、痛いとこ突くじゃん」
 水谷の手をそっと除けながら、瀬能がすぐに優しい笑顔を作った。
「……いや、別に、人それぞれ、仲良くできる範囲は違うから、別にそこは良いと思うんだけどさ。友達として、ちょっと心配になっただけ。変な意味で言ってないから。ごめん」
「大丈夫。わかってるって!」
 俊平はすぐに笑顔で応える。
 その様子を、心配そうに水谷がちらりと見てきた。なので、そちらにも視線をやる。
 和斗がまたもや、はぁと大きくため息を吐いた。

:::::::::::::::::::

 顔合わせと役割決めがざっくり終わり、俊平は椅子の背もたれにグーッと寄りかかった。
 瀬能が事前に言っていたとおりで、女子ばかりだ。
 この空間はなかなかしんどそうだ。
 様子を窺うように教室内を見回す。
 料理同好会トリオ(水谷・紗田・瀬能)。
 夏休み中に挨拶が済んだ瀬能の友達・須藤と高梨。
 プールで会った如月を含めた瀬能のバスケ部の後輩たち。
 ホームルームが終わってすぐに、才藤に声を掛けに行ったところ、ふたつ返事でOKをくれたので、参加してもらった。人見知りの野々原は少々嫌そうな素振りをしていた。もう1人の幼馴染とかいう男子・神崎を連れてきてくれたので、俊平は心から才藤に感謝した。
「女2、男1の幼馴染トリオだから、女子の空気は慣れてるんですけど、さすがにこの比率は」
 頭の後ろで両手を組んで、のほーんとした声で神崎がこちらを見て言ってきた。
 線の細い、ふんわりとした雰囲気の男子だ。男手としては頼りになるのかならないのか、現時点では未知数。
「谷川先輩、細原先輩、よろしくお願いします」
 にこちゃんと笑みを浮かべて、会釈をしてくるので、俊平も姿勢を正して、すっと手を差し出した。
「よろしく」
 意図を察してすぐに俊平の手をそっと握り、すぐ離す神崎。
 和斗もいつもの涼し気な笑顔を浮かべて、「神崎くん、よろしくね」と返した。
「クラスの手伝いとか大丈夫か?」
「あー、たぶん、僕のクラス、そんなに真面目にやらないんで。カオちゃんと月ちゃんは楽器できるからいいけど、僕は弾けないから今回仲間外れで、ちょっといじけてたんで、嬉しいです~」
「なるほど」
「せっかく、カオちゃんも同じ学校になれたんだから、3人で一緒になんかやりたかったんですよねぇ」
「…………」
 素直にそう言う神崎。
 俊平は邑香のことが思考の端にちらつき、ほのかに笑みを浮かべながらも、そっと床に視線を落とした。

:::::::::::::::::::

「へぇ……。休み明け早々、青春してるんだね」
 俊平の話を聞いて、興味なさそうに拓海がそう言って、ストローに口を付けた。
 病院のリハビリの帰りの1時間だけ、勉強に付き合ってくれると言うので、今日もお言葉に甘えたのだった。
 拓海が用意してきた小テスト的な問題用紙を見つめ、俊平は唸る。
「ナオちゃん喜んだでしょ? 興味あるみたいだったもんね」
「はい。嬉しそうでした」
「……聖へレスは文化祭らしい文化祭がないから……」
「へ?」
「ん? なんでもないよ。さ、無駄話はおしまい。問題解いてね」
 拓海から話を振ってきたくせに、涼しい笑顔で傍若無人にその言葉を言い放つ。
 元々の出会いが出会いだったので、マイペースな人であることは分かっているものの、こうしてサシで話す時間ができると、本当に気ままな人なのだということをひしひしと実感した。
 俊平が問題を解いている間、拓海はタブレットをスイスイと操作していた。
 何をしているのだろう? と思いつつも、彼女が設定した制限時間が迫ってきているので、俊平は焦りながら、ここ数日でどうにか脳みそに詰め込んだ知識を引っ張り出す。
 これは知ってる。これは知らない。全く分からない。勘で答えた。
 後から見て分かるように自分で設定した記号を書き込みながら解答してゆく。
「はい、終わり」
 そう言ってポンと手を軽く鳴らす拓海。俊平は唸りながらペンを置いた。
「あーーー、埋められなかったああああ」
「だいじょうぶだいじょうぶ。そうなると思ったから」
「え? やっぱ、これ問題多いすか?」
「ううん。少し難しめにしたから♪ 本当は解き切って欲しかったけどね」
「うー……」
 拓海の涼しい笑顔に、俊平は眉根を寄せて息を吐き出す。
 問題用紙を回収して、拓海はサラサラと丸つけをしてゆく。
 この前の参考書へのマーク付けもそうだったが、思考している時間がないのではないかと思うくらいのペースで処理をしてゆくので、俊平から見ると、まるでコンピューターのように感じられた。
「ふーん……」
 長い睫毛を伏せて、何か考え込むように拓海は声を出し、最後に用紙の上のほうに”45点”と点数を書いた。
「100点満点ですよね?」
「ええ」
「あー……」
「まぁ、今日はこの前出してあげたヒントをどのくらい頭に入れてこれたかを見たかっただけだから」
「頑張ったんですけど……」
「惜しいのもいくつかあったね」
 拓海のイメージよりは優しい言葉が返ってきて、俊平は目をパチクリさせた。
「この記号は、きみなりのカテゴライズかな。採点結果を見て少し分析してみてね。あと、明後日までにこの問題、全部調べて完璧に仕上げてきて」
「えっ?! 明後日?!」
「できない? こっちは稀少な時間を割いてるんだけど」
 手伝ったお礼じゃなかったっけ……?
 思わず突っ込みそうになったけれど、拓海がジトッとこちらを見据えてくるので、俊平はグッと言葉を飲み込み、うなだれた。
「うっ……やります。がんばります」
「よろしい」
 その言葉に満足したように拓海はにっこりと優雅に笑みを浮かべる。
 鬼だ。和斗はすぐに間違えている箇所を指摘してヒントを出してくれるから、優しい。
 彼女のスパルタ方針での受験対策に、俊平は思わずそんな言葉が過ぎった。
「なんでもやり方は一緒だよ」
「へ?」
「陸上のトレーニングだって、間違っているところを少しずつ修正してくでしょ? 違う?」
「……そう言われてみると……」
「だから、時間がかかっても良いから、2回目解く時はきちんと調べて、答えまでたどり着いて。走ることの正解にたどり着くのは、途方もないかもしれないけど、英語の問題にはきちんと答えがあるから」
 彼女の言葉に、思わず俊平は納得した。
「きみには時間がない。だから、このくらいやらないと間に合わない」
「…………」
「反復で体に叩き込む。それだけ」
 鋭い視線で彼女が俊平を見つめてくる。俊平は射竦められて、ゴクリとつばを飲み込むことしかできなかった。

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