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息をするように本を読む 17 〜伊坂幸太郎「グラスホッパー」「マリアビートル」「AXアックス」〜




 伊坂幸太郎作品にはいろんな職業の人たちが登場する。
 中にはこんな職業、本当に存在するのだろうか、という場合もあったりする。
 その中の最たるものが殺し屋だろう。

 この「グラスホッパー」「マリアビートル」「AX アックス」は、殺し屋3部作、とでも言おうか、どれもさまざまな殺し屋たちがたくさん(!?)登場する小説だ。

 殺し屋という職業が本当に存在するのか、とか、その存在の倫理的是非、とかについてはここではちょっと置いておくことにする。
 
 この3部作は続き物というわけではなく、それぞれの話の主人公はみな違う。
 しかし、殺し屋界(?)は意外に狭いのか、一度登場した殺し屋やその関連した事件が別の物語の中で噂になっていたり、ときには本人が、メインではないにしろどこかでまた登場したりする。
 同じ世界観ということなのだろうが、こういうのがファンにはまた嬉しかったりする。

 伊坂幸太郎さんという作家を、誤解を恐れずに言えば、私は物語職人だと思っている。

 1つ1つは面白いのだが、何だかよく分からなかったり、矛盾だらけに見えたり、あちこち穴だらけだったり、そんなふうに思える章が幾つか積み重なっていき、やがて、おっ、これはひょっとして…と気付くと。
 そこからジェットコースターさながら怒涛の結末へなだれ込む。

 それはまるで計算し尽くされたドミノ倒しを見るようだ。見事と言っていい。


 まさに職人芸。

 そうか、これはここの伏線。あー、これはあのときの。そうか、そうなのか。
 
 伏線の取りこぼしや置き去りは一切ない。
 あれ、ここは? と思っても、思いもかけないやり方でちゃんと回収されて、その騙された感がまた心地よかったりする。

 私は伊坂作品を読んでいて、あ、そろそろ来るか、と思ったら、とりあえず、そこでいったん本を閉じる。
 なんなら1日置いてもいい。
 
 そして、用意万端、絶対に要らぬ邪魔が入らないように準備して、それから結末まで一気読みする。
 ドミノの完成を堪能するのだ。
 これこそ、伊坂作品の醍醐味(あくまで個人の好みです)。
 

 そして、もうひとつの伊坂幸太郎作品の魅力は、そのセリフだ。 
 作中人物たちが、よく警句を吐く。
 その言葉は何かおかしいと思うのだけれど、妙な説得力がある。
 登場人物たち同士の会話も絶妙だ。テンポもいいので、何度か読むと覚えてしまう。

 セリフといえば、伊坂作品で私のお気に入りのシリーズはもうひとつある。
 「陽気なジャングが地球を回す」という、わりと初期の作品で、映画化もされている。

 これも主人公たちがみな銀行強盗というトンデモ設定作品なのだが、作中の登場人物たち同士の会話が本当に面白くて洒落ている。(銀行強盗の是非はここでは置くことにする)

 我が家ではふとした折によく、「響野と久遠だったら、ここできっとこう言う」とか、「成瀬が言いそう」とか家族で言い合うことがある。
(響野も久遠も成瀬も小説の登場人物)


 私がいつも記事を読むのをとても楽しみにさせていただいているEmiさんも以前「陽気なギャング〜」を紹介されていた。


 自分の好きな映画や本が紹介されていると、こんなに嬉しくワクワクするものなのか、と思った。

 
 全ての伏線や仕掛けが見事に回収される伊坂作品だが、それだけではなく、最後にはホロリとさせられたりしんみりさせられたりする仕掛けも用意されている。

 あー、こう来たか。
 やっぱり、伊坂幸太郎、職人だなぁ、としみじみ感嘆してしまうのだ。
 

 本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。


 物語職人、伊坂幸太郎との出会いに深く感謝する。
 

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