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息をするように本を読む96〜伊坂幸太郎「逆ソクラテス」〜

 久しぶりに伊坂幸太郎作品を読んだ。
 ここしばらく、冷や汗の出そうな毒舌系とか悪人しか出てこないハードボイルド系とかやたら壮大な歴史ロマン系とか、そんなものばかり読んでいて、伊坂ワールドにはとんとご無沙汰していた。

 一時期、伊坂幸太郎さんの作品を読み漁っていたときがあった。
 いろんなエピソードをパラパラとばら撒くように並べ、いったいどっちへ行くのだろうと思わせておいて、後半を過ぎたあたりからまるで周到に用意した巨大なドミノ倒しのように、みるみる伏線が回収されて、あれよあれよと物語が巻き取られていく。
 それがとても心地よくて、ほとんど中毒のように伊坂さんの作品ばかり読んでいた。
 
 あるときから次々に出る伊坂作品についていけなくなり、何となく敷居が高くなって、しばらく読んでいなかった。

 ある日朝刊を開くと、第一面の下の新刊紹介が掲載される欄にどーんとぶち抜きで広告が出ていた。

 第33回 山本周五郎賞受賞作品
 待望の文庫化
 『逆ソクラテス』

 『逆ソクラテス』は昨年、noteでも話題になっていて、タイトルを何度か見かけていた。
 
 敵は先入観。
 なるか、大逆転。
 全て小学生が主人公の珠玉の短編5篇。

 宣伝文句に心が惹かれた。
 その後、書店を覗くと店頭にずらりと平積みされている。
 出版社やお店の策略に易々と乗るのもどうかなと思ったが、久しぶりだし、ここはやはり運命でしょ、ということで購入した。

 ずいぶん読んでいなかったので、伊坂さんの独特のリズムの文章についていけるかなと少し不安だったけど、読み始めるとそんなのは杞憂だった。

 小学生が主人公、というのは面白い趣向だと思う。しかし、もし私が書くとしたら、どこまで子ども目線で喋らせるか、が難しい。
 子どもが妙に大人な考え方や発想や話し方をしたら興醒めだ。かといって、全部子どもらしく話させたら、ストーリー上で言葉足らずのところが出る。児童書じゃないのだから、それでは物足りないことになるだろう。

 解説にもあったが、著者はそこを、大人になった主人公に回想して喋らせるという形式でクリアした。
 自分が子どものときのことを成長した自分が話しているのだから、地の文では大人のような話し方をしても違和感はない。
 そして、子どもの頃の回想と大人になった現在とを交互に出してくる。
 
 やっぱり、うまいなあ。
 5篇もあるので、ひとつひとつはそんなに長くないし、物語の規模も小さい。
 子どもが主人公だからか、読後感も清々しい。でも、やっぱり単純な勧善懲悪では終わらない。
 相変わらず、会話もリズム良くシャレていて面白い。
 伏線の張り方も回収の仕方もオチも秀逸。
 
 さすが物語職人。(めっちゃ上から目線)
 
 いやー、久しぶりの伊坂ワールド、堪能しました。

 本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。

 伊坂作品の醍醐味のひとつに、その独特の「名言」があると思う。
 別に大上段に構えるわけでもなく、何ということもない日常の言葉なのだけど、物語の中にはめ込まれていると、いろんな意味で、妙に納得してしまったり、本当にそのとおりだ、と感嘆してしまったりする。
 後からふと思い出して、使ってみたくなったり。
 そんな言葉は、我が家の会話の中で伊坂名言としてときどき登場する。

 この5篇の作品にも、それぞれに「名言」があって。
 ただ、どれを名言とするかは、読む人それぞれで違うと思うので、ぜひ、ご自身でご自分の名言を見つけていただきたいと思う。

 この作品の中で、私が見つけた名言をひとつだけ。
 スポーツ根性物みたいだけど、それだけではない深い名言。

「バスケットの世界では、残り1分をなんていうか知ってるか?」
「なんていうの?」
「永遠だ、永遠」

 この話のラストは特に秀逸で、不覚にも私は泣きそうになった。

 そして最後に、私の大好きな伊坂作品の中の、私が日常でもよく使う名言を。

 「人間の最大の武器は、習慣と信頼」

 伊坂ファンの方々には、どの作品かお分かりだろうか。

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