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『クリスとみちる』 16話:始まり

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 もし、いま、同じことを聞かれたら、

 口に出してみたいことはいくつもある。


 逆に聞いてみたいことも、たくさん浮かぶ。


 でもこの時の僕は、自分に何が起きたのか よくわかっていなかった。

 だからしょうがない。


 本当のことを言うと、それはいまでもわかっていない。



 みんながにぎやかにお別れをしているのを見上げながら、

 遠くでお母さんがクリスとちえこさんに

 何か話しているのをぼんやりと眺めていた。


 何人かに「みちるくん、握手しよう」と言われて握手したり、

 一緒に写真を撮ったりした。


 このときの写真をみると、あまりにも子どもで恥ずかしい。


 よく行ったな自分、と思ってしまう。


 でも行ってよかった、と思っている。



 いま思い出すと、この頃は本当に微妙な時期だった。


 ひとつ間違えたら、学校どころか家から

 一歩も出られなくなっていたかもしれない。



 グラグラの橋を落ちそうになりながら渡っていたような感じ。


 ものすごく必至に、でも無自覚に。



 そうしてゆっくりと、

 ひと夏をかけて目覚める時間が変わっていった僕は、


 九月の始業式の朝、ぴったり七時に目覚め、

 無事に学校へ復帰したのだった。



 その時は「こんなものか~」と思っていたけど

  中一になったいま、


「いや、そんなもんじゃないだろう」と思う。


 なぜ治ったのかはわからない。だから考えてもしょうがない。


〜つづく。


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