陽はまた昇る

陽はまた昇る

「え、何で?」
「いやだからばーちゃんが会いたい。っていうからさ。」

今年のクリスマスを一緒に過ごす予定だった彼から
「ごめん、キャンセル。」
って言われた。

別に若い子じゃないから、特別何かがしたいわけではないのだ。
家でホットワインを飲みながらネトフリ見るとか、
そういうのでいいのに、今年は急遽帰国することになった。という。

彼はエストニアと日本のハーフだ。
エストニアにいるおばあちゃんがどうしても今年のクリスマスを一緒に過ごしたい。
と言っているのだという。

もう、そうそう会えることもなくなるから。
前のように好きな時に母国に帰ることが簡単ではなくなってしまったので、
会える時にあっておきたいのだという。

「もうちょっとで論文のめどがつくから、それおわったら、ちょっくらいってくる。」
数学者の彼はいつもタブレットと数字をにらめっこしながら、私にいう。
わたしは「わかった。」とひとこと言った。

キッチンにて、クローブが効いているホットワインを飲む。
スパイスケーキは前もって作っておいて、
それで数週間寝かせて、で、クリスマスイブの日に一緒に食べようと材料だけ準備していた。

彼の子供のころの写真を見たことがある。
エストニアのおばあちゃんのおうちで撮ったという家族写真。
黄色とか赤のまるでピエロみたいな、もしくはテーマパークで売ってそうな、
派手な色のニット帽をかぶっていた。
あの帽子、外国の子供じゃないと似合わないよね。

わたしは心の中で自分が今着ている黒いニットの毛糸を
シュルシュルとほどくことを想像した。
そしてそのまま、あの派手な帽子をかぶった子供の彼に会いに行った。
想像の中の子供の彼は金色に瞳を輝かせている。
彼の帽子の毛糸も、またシュルシュルとほどく。

わたしは自分のニットの黒い毛糸と、彼の帽子の黄色い毛糸を
そっとリボン結びにした。

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