![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/133449357/rectangle_large_type_2_a25b5627e307a79f7bb5826c878c1788.jpeg?width=1200)
ことばの果実
素敵な本に出会ったので紹介します。
タイトルは『ことばの果実』。著者は詩人・作家の長田弘さんで、いろいろな"果実"について書かれた短篇エッセイ集です。
どこでだかは忘れましたが偶然知って気になったので図書館で借りてみました。
長田弘さんのことは存じ上げておらず、作品を読むのは初めてです。
まず表紙のイラストが優しい筆のタッチで描かれた、おそらくミカン。なんだかあったかい気持ちになります。
各話の挿し絵もそれぞれの果実が描かれており文と絵の両方を楽しめます。
エッセイには、どの話にも果物のもつ様々な美しさを表現した文があります。
オレンジは色だった。(中略)
色鮮やかでいて、どぎつくない。明澄な色であって、透明でない。どこででも見る色のようで、どこででも見かけるような色でない。
どんな果物にもまず求められるのはよいかたちであり、よい歯ごたえであり、よき味であるだろう。けれども、オレンジはちがう。オレンジになにより求められるのは気もちのいい色、いい香りであるだろうから。
読んでいて、今まではっきり意識していなかったオレンジのもつ美しさを言葉で感じることができます。
果物は五感それぞれで美味しさを感じられる食べ物なんだなと気付きました。
また、長田さんの思い出や果実の登場する物語と一緒に、果実のある風景と心象が豊かに綴られています。
柿の味の深さは、うつくしい秋のきれいな空気だけがつくることができるのだ。
栗は、優雅よりも無常を感じさせる、そういうものだったのだ。(中略)
だが、人生の無常というのは、いったい信じるに足るものなのだろうか。それは、たとえば大粒の栗が数個ごろんとかくされている、一さおの栗蒸し羊羹がくれる一瞬の幸福にすらおよばないものではないのだろうか。
さらに作中には笹の葉や納豆など果物以外の"果実"もいくつか登場しています。
あずきのような豆は莢果とよばれる。莢はさやだ。果は実だ。だから、豆も果実なのだが、豆は果物ではない。果実と果物はおなじでなく、果物は果実の一つだ。
私の「茜さす果実」というブランド名、もちろんりんごを表しているというのもあるけれど、名前を見た人に想像させる余白を残しています。
"果実"と聞くとイコール果物だと思い込んでいましたが、この本を読んで"果実"という言葉には広く深い世界があるんだと気づきました。
これは私の今後の活動によいヒントになりそうです。
ぱらぱらとめくって一話読むだけで、果実の美しさや清々しさ、美味しい気持ちに包まれたような心地になります。
自分の手元に置いておきたい一冊に出会えました。現在は文庫版もあるそうなので本屋さんで探してみようと思います。
出典:『ことばの果実』長田弘 潮出版社