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【連載】訪問者7(魔法仕掛けのルーナ25)

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「僕はアレク・シアン。この街に住んでいる兄と連絡がつかなくなったので、様子を見にきました。でも兄の家に行くには魔法使いの杖が必要だと、そこの——ジョージさんに聞いて、知り合いの魔法使いを紹介してもらうところでした」
「? なぜ、杖が?」
「兄の家は北の森の中にあるらしいんですけど、入れなくて」
「ああ! あの森に。
 そう言えば、森でお薬を作っているお友達がいると先生から聞いたことがあります。たしか……フリードさん?」
「はい。兄のことです」
 サリーはふむふむと頷いた。
「それで先生に会いにきたんですね。ごめんなさい、留守で」
「い、いえ。こちらこそ急に来てすみません。それでその、所長さんはいつ戻ってくるんですか?」
 アレクがそう言った途端、サリーの表情が曇った。
 彼女は至極申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「……ごめんなさい。わからないんです。出かけて四ヶ月以上経つのでそろそろ帰ってくるはずなんですけど……」
「え? そんなに?」
 ジョージが指先で前髪を弄びながら口を挟んできた。
「帰郷してるんだったね。随分長引いてるじゃないか。君は留守を任されてるの?」
 サリーがこくりと首を縦に振る。
「俺としては、俺達に敵意を持っていない魔法使いなら誰でもいいんだ。今すぐ君が同行してくれたら助かるんだけど、どうだい? アレクもそれで構わないだろ?」
「……そうですね。サリーさんが一緒に来てくれたら助かります」
「それは……」
 サリーは視線を足元に落として考え込んでしまった。
(いきなり知らない男に頼み事をされても困るよな。ジョージさんともそんなに親しくなさそうだし)
 アレクはジョージに顔を向けた。
「他に当てはないんですか?」
「ない! 彼女に招待状を申請してもらったとしても、発行して手元に届くまで一週間くらいかかるはずだ。行くならなるべく早い方がいい」
 アレクはふと、違和感を覚えた。
「……ジョージさんは、急いでいるんですか?
 確かに僕は、兄の家の他に泊まる当てがないので、早い方が助かりますけど」
 ジョージは訝しげなアレクの顔を見つめ返しながら、ゆっくりと腕を組んだ。言葉を選んでいるのだろう。
「……まだ言ってなかったけど、実は一ヶ月くらい前にフリードに会ってるんだ。その時にちょっとした行き違いがあってね。いくら手紙を書いても返してくれないから、たまに森の前まで様子を見に行ってたんだけど、俺が最後に会った日から一度も街に出てきた様子がないんだよ」
「一度も? 確かですか?」
「森の前にレストランがあっただろう? そこの主人に聞いてみたけど、フリードも、あいつが使ってるゴーレムも、一度も見てないってさ。だから少なくとも店が営業してる時間には出てきてないってことだ。自給自足にも限界があるだろう? 会った時から随分やつれていたから、もしかしたら弱って動けないのかもしれない。
 ……どうだい? 心配になってきたんじゃないか?」
 言わずもがなだった。アレクの眉間にみるみるシワが増えていく。

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