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絵本 de 金子文子『(何が私をこうさせたか)父よ、さらば』
作画:茜町春彦
原作:金子文子
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「お前に今うちを出られては、いかにもワシが苛め出しでもしたように親類たちから思われるからもう少し辛抱していておくれ」と、叔母は頼むように私を引き止めた.
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けれど私はもう我慢ができなかった.
私は東京に出る決心をした.東京に出て苦学することにきめた.
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ただしかし、そうするのにはそうするだけの準備が必要だった.
東京に出てから当分の間は何もできないだろう.その間、衣類のことなんかには構っていられないだろう.そう考えて私は、せっせと洗濯をしたり、縫い直しものをしたりして、時を待った.
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新聞が来ると何よりもさきに職業案内のところをみたり、英語や数学の学校の生徒募集の広告を切り抜いては行李の中にしまい込んだりもした.
だが、それにしても私は、東京に出てどうすることができようか.どこに誰を頼って行こうとするのであるか.そんなことについて、私は皆目見当がつかなかった.
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激情の過ぎ去った後の父は、無論その時ほどには私を憎みはしなかった.
けれど、自ら進んでどうしてやろうというような親切は爪の垢ほども持ち合さなかった.たといあったとしても、父にはそれをどうすることもできなかったであろう.
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いつまで考えていても、どうするという計画は立たなかった.
私はもう、当たって砕けるよりほかに途がないと思った.何でもいい、ただ行って見よう.行ってどうかしよう.こう私は腹をきめた.
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そして、いよいよ明日行こうときめた前の日、私は父にきっぱりと言った.
相談したのではない宣言したのだ.「明日、東京へ行きます」と.父も叔母も今はもう私を止めなかった.
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私はその翌朝、ひとり父の家を出た.
私の懐中には汽車賃ともでやっと十円ほどがあった.一脚の机もなければ、一枚の布団もない.一本の雨傘さえ父は私のために用意してくれなかった.やがて自分の上に襲うて来る雨をも風をも寒さをも、すべて私は自分の身をもって防がねばならなかった.しかし私は恐れなかった.私の肉体にはハチキレル緊張があった.
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自分にしっくりと合った生活を求めて、どこかにそうした生活があると信じて、私は私の偽りの家を捨てた.
私の十七の春だった.
さらば父よ、叔母よ、弟よ、祖母よ、祖父よ、叔父よ、今までの関係に置かれた一切のものよさらば、さらば、今こそ私たちのわかれる時が来たのだ.
〈了〉
―― あとがき ――
参考文献:何が私をこうさせたかー獄中手記(2017年12月15日第1刷発行 金子文子著 岩波文庫)
使用画材:ArtRage 3 Studio Pro(アンビエント社)Photoshop Elements 10(アドビシステムズ株式会社)
初出:パブー(2018年1月24日) パブー投稿作品を修正して移植しました.