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台湾映画『青春の反抗』ネタバレ感想/民主化運動の先にある新たな闘争まで

2023年制作(台湾)
原題:青春並不温柔 Who'll Stop the Rain
監督、脚本:スー・イーシュエン
キャスト:リー・リンウェイ、イェ・シャオフェイ、ロイ・チャン
配給:ライツキューブ
2023年・第36回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門上映作

東京国際映画祭2023で鑑賞。2024年3月8日に公開が決定。

原題は青春は優しくない、甘くないといった意味。邦題は、〝反抗〟とある上に、予告から学生運動の映画であることがわかるので、政治的な映画の印象を持つかもしれない。ちなみに英題の〝Who'll Stop the Rain〟は、Creedence Clearwater Revivalの楽曲からきているそう。この歌はベトナム戦争に対する歌であるが、歌の歌詞に重なる部分があるのと、撮影した時期が雨季であったり、この時代自体が雨季のようなイメージであることからつけられたという。

舞台は、戒厳令が解除された1987年からさらに7年後の台湾。まだ古いシステムなどが残っており、若者が民主化を求め抗議運動が盛んに行われていた。そのような情勢の中、チーウェイ(リー・リンウェイ)は美術学科に入り、寮で生活を始める。

美術の成績は、作品の良し悪しではなく、学長の言うとおりにするかしないかで決まる。反抗的な態度を取れば、成績を下げられあげてもらうには反省文を書かなくてはならない。そんな時にチーウェイが出会ったのが、学生運動家たちであった。

学長の言う通りにしなかった結果、退学させられた学生の退学取消しと学長の退任を求めてビラなどを配って、見つかりそうになっては逃げている。チーウェイは、リーダーのクァン(ロイ・チャン)の恋人であり、中心メンバーのチン(イェ・シャオフェイ)に興味を抱き、次第に惹かれていくように。

議員の娘である上に、美術学科ではなく法学科のチンは、自身の微妙な立場に気分が塞ぐことも。優しくしたかと思えば突き放す、気まぐれで難しいチンに困りながらも、クァンにとってはリーダーである自分にとっても、恋人としても必要な存在であった。

学生運動の映画によく描かれることであり、実際そうなのであろうが、熱量を持って活動をしていても、状況が変わらない上に弾圧が厳しくなってくると内部分裂が起き始める。方向性の違いを感じたり、妥協点を探し始めたり。

そのような政治的闘争を描きながらも主軸になっていくのはチーウェイ、チン、クァンを取り巻く三角関係である。チンは不意にチーウェイにキスをする。そのくせその後避けたり、突き放したりして何でもなかったことにする。振り回されながらもチンに惹かれていくチーウェイの姿にクァンは自分に好意を持っているのかと勘違いしてしまう。

チーウェイは恋人同士であるチンとクァンに振り回され、ある意味第三者のような、部外者のようなポジションにいる。しかし、まっすぐなチーウェイは思いを隠すことなくチンにぶつかっていき、臆病なチンが心を許していく。そうなると、部外者的ポジションにくるのはクァンになっていく。

チンがチーウェイを遠ざけたのには訳があった。チンはかつて、同性のピアノ教師に恋心を抱いたが、それを知った父親によって引き離された。以来恐らく同性に思いを寄せてもひた隠しにしてきたのであろう。一方でチーウェイにとっては恐らく初めての恋で、チンにとってはチーウェイの純真さは恐怖であり、穢してはいけないものであったはずだ。

〝この関係は秘密にしよう〟

チンがそう言ったのは、女性同士の関係性に対する世間の目を過去の一件により知っていたからである。本作のとても良い点は、そこにある。自由のために闘う民主化運動の高まりを描きながら、その後にやってくる新たな闘争の予感も仄めかしている。

チンは、「金持ちの恋人の私を連れて歩くと気分が良いでしょう」と言う。それに対してクァンは否定するが、チンが自分に相談せず行動したりして、自分のリーダーとしての面子を損なうことを嫌がる。一方でチンもクァンを愛しているかは曖昧なところでチン自身もクァンを利用していないとは言えない部分もある。

また、チーウェイが冒頭クラスメートの男性と話している際、そのクラスメートは「女性は結婚して夫の稼ぎの中で美術を続けられるから良いよな」といった発言をしている。学長もチーウェイの髪型など外見に口出ししたり、男性の登場人物の描写から女性蔑視が当たり前だった時代の様子が伝わってくる。そのような女性の権利の問題やチーウェイとチンの関係からクィアな関係性に対する問題も仄めかし、現代的テーマも落とし込んでいる。

余談だが、本作の挿入歌のMVが公開され、チーウェイ役のリー・リンウェイ、チン役のイェ・シャオフェイがウェデング姿で登場する。

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