映画『私、アイドル辞めます』ネタバレ感想/誰かを推すこと、推されること
原作は、Twitterで話題になった漫画。となりのヤングジャンプにて、特別読切が公開されている。
「会いに行けるアイドル」として登場したAKB48は色んな意味で革新を起こしたアイドルである。今や様々なアイドルが活躍し、ご当地アイドルや地下アイドル…など様々なアイドルが活動している。当然数が増えれば上に行けるアイドルは限られていき、上に行くには努力だけでは叶わないものもあるのが現実だ。
夢を見て活動しているアイドルも、応援しているファンも、現実にふと立ち返らなくてはいけない時期がくることもある。頑張った、でもダメだった、と言わなくては行けない日がくることも。仕方ないと割り切れる人はそういない。今までの日々は無駄だったと思いたくはない。
そんなアイドルのファンの心情をありありと描いたのが『私、アイドル辞めます』という漫画だったのだろう。それを、何と現役アイドルが演じるという。
かつてアイドルを推したことがある人にとって突き刺さる映画であることは間違いなく、出演しているアイドルのファンの方の心情はいかに…と思ってしまうが、映画自体はとても良かった。
劇中のファンほどアイドルを推した経験はないが、私自身もアイドルが好きで、疲れた時にアイドルのパフォーマンスを見て勇気づけられたことは何度もある。その存在の大きさを改めて感じたのがコロナ禍であった。
自分たちの存在価値、何ができるか、と葛藤する姿に、言い方は変だけれどアイドルが遠い存在ではなく同じくこの世界で漠然とした不安と共に毎日足掻いているのだと感じられた。そのことが私にとって大きかったということをコロナ禍が落ち着いてから改めて実感したのだ。
パフォーマンスをして、ファンが声援を送る、当たり前に行われていたライブが行えなくなった。いつかまたファンと交流できる日まで…と言ってもそれがいつ来るか分からない。そんな不安を隠さずに吐露しつつも、弱さを見せず笑顔を絶やさないようにする姿に励まされた人はいる。
頑張っている人を応援したいと思う気持ちも、応援に応えたいと思う気持ちも、結果がどうであれ尊いものだと思いたい。しかし、夢と現実の厳しさは大きなものでその残酷さを前に多くの涙がこぼれる。
一方でアイドルにまつわる労働搾取、性搾取がたえない現実も忘れてはならず、私はアイドルが好きで応援したい気持ちと共に全力で応援しきれぬ背景もある。多くは事務所が信用できないという問題であるが…。
今後も私はアイドルにまつわるあれこれを考え、複雑な思いを抱えながらも色んなアイドルを応援するのだろうと思う。
やや余計な話が長くなってしまったが…映画の話に戻ると、本作は25分の短編のため、それぞれのファンの背景や、主人公・千優里の背景が描ききれなかった部分はあるのだろう。
“アイドルというドラマは、どんなエンディングかは重要じゃないと思う”
“君は全力だった”
ファンの1人が最後にアイドルへの思いを語るが、原作漫画ではそのファンは男性であったが、映画では女性のファンになっていた。学校で友達もいなかったけれどファンになって出会えなかった人たちと出会えた、千優里ちゃんのおかげと言っている場面も。
原作ではリストカットのあとがある女性や、ファン同士で出会って付き合ったり…というエピソードもあったが、尺の関係で難しかったのかもしれない。しかし、千優里の妹の存在や家族も千優里の活躍を楽しみにしている姿が描かれていたのは良いと思った。
さらに、原作で千優里はコールセンターの仕事をしていたが、映画では倉庫のようなところで働いていた。これに関しては変えなくてもいい気がするが…。
あまりやる気のないメンバーに関しても、恋人がいることを仄めかす描写があったが、映画ではやる気のないメンバーもアイドルが演じている以上そこら辺は難しい気がする。
アイドルのドキュメンタリーは、裏側さえも商品として売り出すのかという複雑な思いを抱いてしまったり、所詮作られたものであるという認識を抱いてしまって苦手意識があるのだが…最近見たJO1のドキュメンタリー『JO1 THE MOVIE『未完成』-Go to the TOP-』は良かった。
JO1について私が色々見るようになったのは最近で、「PRODUCE 101 JAPAN」の頃やデビュー当初のことはよく知らなかったが…デビューして早々コロナ禍に見舞われ全てのイベントが白紙になり、どうすればいいのかこれからどうなるのか分からない現状が映し出されていていたのが興味深かった。