韓国映画『小説家の映画』ネタバレ感想/連帯と再スタート
『あなたの顔の前に』でホン・サンスの映画に初主演したイ・ヘヨンを再び主演にむかえ、ホン・サンスと公私共にパートナーであるキム・ミニと豪華共演を果たした。その他のキャストもソ・ヨンファ、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、キ・ジュボンなど、ホン・サンス作品でお馴染みのキャスト陣が顔を揃える。
イ・ヘヨン演じるジュニは、長らく執筆から遠ざかっている著名作家である。ソウルから離れた地方へ書店を営む友人を訪ねに行く。ひっそりと書店を営んでいた友人は、突然の来訪に戸惑う様子をみせるが、ジュニは図太いのか、無頓着なのか、他人の顔色を気にする素振りはない。
そんなジュニは、第一線から退いた女優・ギルス(キム・ミニ)に出会う。休息なのか、引退なのか分からない状態にいるという点において、ジュニとギルスには共通点がある。
ギルスに、「勿体ない」という映画監督に対し、突如ジュニは「何が勿体ないの?自分のしたいことをして生きている人を尊重すべき」と強い口調で諌める。ジュニ本人が言われたわけでもないのに、あまりにもはっきり言うのでやや失礼な人のように映ったが、これは日本人的な感覚、もしくは個人的な感覚なのだろうか。
ギルスと打ち解けたジュニはギルスを気に入り、突如思いついたかのように、ギルスを主演に映画を撮りたいという。これには周りも驚くが、ジュニは本気の様子だ。その後撮影などしている様子がふわっと映し出されるが、どのような映画なのかも全く分からず、上映会の日をむかえる。上映会の様子からして、アーティステックな映画のようだが、そもそも映画を撮って何がしたかったのか、よく分からず。
『逃げた女』から発展して、女性の連携を描こうとしている様子はうかがえる。しかし、ジュニのキャラクター性はややふわっとしていて、どう描きたいのかよく分からない。スランプを脱する何かを探していたところ、辿り着いたのが映画だったのか。最後にモノクロからカラーに移り変わって映し出された映像がジュニ撮った映画だとしたら、自己満足以外の何物でもない映画に思えてしまう。素人くささに、もはや気持ち悪いとすら思うほどである。
ジュニの再スタートを描くにしてもふわりとしすぎている。『あなたの顔の前に』で見せた崇高さと孤独もなく。これでは馴染みのメンバーを集めて当たり障りない会話をしているだけでないか。多少の気まずさが映し出されているが、かつてのどうしようもない大人たちの姿はなく。しつこいほど繰り返される三角関係、しょうもなさ、酒…そんなものが恋しくなってしまう。爽やかさで全てを薄味にしてしまってはいけない。
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