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韓国映画『デシベル』ネタバレ感想/復讐と生き残ってしまった苦悩

2022年制作(韓国)
英題:Decibel
監督:ファン・イノ
キャスト:キム・レウォン、イ・ジョンソク、チョン・サンフン、パク・ビョンウン、イ・サンヒ、チョ・ダルファン、チャ・ウヌ、イ・ミンギ
配給:クロックワークス

THE WITCH 魔女 増殖』で登場シーンは少なかったものの、存在感のある役を演じたイ・ジョンソク。他の出演作も見たいと思っていたところに公開されたが、なかなか予定が合わず配信レンタルにてやっと見ることができた。

イメージチェンジのためか分からないが、若手俳優が悪役や狂気的な役を演じることが多いなと思う。

イ・ジョンソクが影のあるテロリストを演じ、孤軍奮闘する元海軍副艦長を演じるのは、『江南ブルース』『最も普通の恋愛』のキム・レウォン。また、本作はASTROのチャウヌの映画デビュー作となる。主題歌も担当。

海軍元副館長のカン・ドヨンの元に見知らぬ人物から電話が。仕掛けられた爆弾、どちらを救うか選択を迫られる。爆弾を探し阻止しようと奔走するカン。テロリストの狙いとは——。

テロリストは、カンの大切な人を奪おうと爆弾を巧妙に仕掛けていく。しかもその爆弾は、音の大きさに反応し周囲の音が一定のデシベル達すると爆発する。更に一定の距離を離れても爆発するため、爆弾を仕掛けられた対象は、逃亡をすることもできない。

民家が爆発したのを受け、軍の上層部も動き出す。早い段階でテロリストの目星はついていたのか、ある男性を追う。

その男性は、チョン・テソン。かつて、海軍の兵士であり、カンが副艦長を務める潜水艦「ハルラ」に乗っていた。あの時、皆死ぬべきだった。身を顰めているやつはいいが、彼らの死を利用したとカンを責める。

あの時とは、ハルラで起きた事件のことだ。上層部はこの事件の記録を残さず、真相を誰も語らなかった。生存者の1人であるテソンはそのことに憤り、復讐を誓ったのだ。しかし、それは自分自身が生きていることに耐えられなくなったということもあるのかもしれない。

テソンはカンの娘と妻に爆弾をつけ、どちらかを救うか、どっちも殺すか選べ、という。カンはテソンが身につけていたベストを奪い爆弾を解除しようとし、揉み合いになる。しかし、カンはテソンを殺すことができず、その隙にテソンはカンを殺そうとするが、やってきた警察に撃たれてしまう。

ハルラで何が起こったのか。カンを含め44名が乗員していた潜水艦ハルラは、魚雷を受け座礁する。しかし、その魚雷は敵国のではなく自国の魚雷であった。その上、上空には台風が来ている。

隠蔽するためにも他国の援助は受けられず、台風が通過をするのを待って救助に行くには、10何日もかかる。しかし、酸素の量からして持って数日であった。

全滅するか、半数だけでも生き残るか。自分には決められないから投票をしようとカンは言う。しかし、投票の結果は賛成が4、反対が4、そして後は空欄。副艦長であるカンの判断に委ねるという。カンは半数だけでも生き残ることを選択し、皆で糸を引き、糸の長さで生き残る人とそうでない人を選別した。

最後まで半数が残ることを反対していたのは、テソンであった。テソンは、弟のテリョンと共にハルラに乗り、残酷にも生き残れるのはテソンのみであった。テソンは糸を交換したいと申し出たがカンは、交換は許されないと認めなかった。「あの時糸を交換させてやるべきだった」とカンは、爆弾を仕掛けたテソンに向かって言う。

事件の真相を知り、ロシアの潜水艦クルスクの事件と、その事件を映画化した『潜水艦クルスクの生存者たち』を思い出した。余談。

カンは、あの時の真実を話そうとマスコミの前に立つ。事件のことを話したカンに、「当時に戻れたらどんな判断を?」と質問がくる。カンは答えなかったが、恐らく同じ判断をしたのではないだろうか。生き残ることは苦しい。

コンクリート・ユートピア』を見ても思ったが、韓国映画では残酷だけれど起き残るために選別するという判断を、上が下すことができる。

しかし、日本社会では恐らく無理だろう。裏でこっそり自分から犠牲になるように仕向けるやたり、暗黙の了解で選別が行われたりするだろう。もしくは皆で死ぬことを選ぶ。そんな気がする。そして緊急時の残酷性を映画やドラマで描くことも避けるだろうな、と思う。

また、イ・ジョンソクが今までとは違う狂気的で冷酷な役を演じたと宣伝されてはいるが、そこまで狂気的な人間ではない。目的は復讐で弟を見殺しにせざるを得なかった、生き延びてしまった苦悩ゆえの復讐で、実は爆弾もそんなに爆発していないし、多くの命が奪われたわけでもない。けれど人の命は奪っているので数など関係なくその行為は、許されぬことではある。

個人的に、このようなテロや、誘拐犯との手に汗握るパニックアクションがあまり好きではないので、前半のがちゃがちゃした展開は特に何の感情もなく見ていたが、終盤の事件の真相の場面は心を動かされるものがあった。

弟を失った上に生き延びてしまった苦しさは伝わってきたが、軍人としての能力や知能が分からないのでどうやって高度な爆弾を作り上げたのか…に関しては、疑問を感じる。

判断を下したカンに矛先が向いていたが、当時判断を放棄、見殺しにした上に真相を隠蔽した軍の上層部に対してもっと怒って良いのではないだろうか。上の人々が集まるパーティに仕掛けてはいたが…。知能犯なら軍の上層部のある建物に大きな爆弾を仕掛けていてもおかしくはない。

イ・ジョンソクとキム・レウォンの対峙をメインに持っていきたかったのは分かるが、グッとくるシーンで終わりよければ…とはならず。

イ・ジョンソク演じるテソンの弟テリョンを演じていたのが、本作が映画デビューとなるチャ・ウヌであった。正直もっと脇役だと思っていたので、物語に絡む重要な役どころであったのが嬉しい。

しかし、ファン大尉を演じたイ・ミンギの方がもっといい役で、印象的だった。総じてうまくまとまっているようで、考えてみるとあれ?という粗さが目立つ。

余談だが、韓国映画・ドラマを見ていると、警察官や軍人は上司に向かって敬礼し、「忠誠」とよく言っている。それが海軍だと「必勝」になるのか何度かその言葉が出てきたのも印象的。

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