【エッセイ】 魔法がつかえない
魔女の宅急便のキキが魔法が使えなくなったシーンのこと
魔女だって女の子だし
魔女だって風邪を引く
ちょっぴり自分の力に自信が持てなくなった時
何だか色々と上手くいかない時
自分が自分じゃなような時
魔法は使えなくなってしまう
私の魔法の発動には条件がある
心の状態と体の状態が良く、ひとりに浸れる何者にもなっていない時
心がマイナスにもプラスにも傾いていない時に、ひとり森に行くと
綺麗なリボンが空から降りて来るように数珠繋になって
するすると、次から次へと言葉がどこからともなく降りてくる
描きたい絵のアイディアがキラキラと降ってくる
目には見えない糸を、あちらこちらから手繰り寄せるように
私は自分だけの自分の存在のことさえ忘れた空間で、どこからともなくやって来るもので編み物をするように何かを作り出す
それは、心と体の底から活力とワクワクが漲るような魔法のような時間
私がひとりでいる事を選ぶのは、そんな理由もある
この魔法が使えなくなってしまわないように、いつだって守ってきたのだ
だから、とても繊細なこの魔法が途切れない様に暮らすことはどこか悲しい
でも、魔法がなくなってしまったら
もう自分は自分ではなくなってしまう
それなのに
こんなにも大切に守っていると言うのに残酷にも魔法は私の前から突然に姿を消す事がある
今、私は息子の春休みに伴い母モードに
頭はすっかり切り替わり
私でさえない私にには随分と長い間会えていない
今、私は朝起きた時から夜寝るまで母親と言う自意識をONにしたまま毎日を送っている
そんな時は
魔法がうまく使えない
メモにはボツになった作品集がいくつも積み上がって行き
家計簿は開かれても、スケッチブックはほとんど開かれることもない
机の前にじっと何時間も座り、何も出来ずにため息を吐いて仕事の時間を終えることもこのところはよくあること
魔法は使い方を覚えると、魔法を使えない条件もわかってしまうらしい
魔法を取り戻す方法
それは、少し忘れることだ
そして、少しづつ気持ちが持ち上がり
全てのコンディションが整うのを、今は仕方ないといい聞かせて待つことだ
ほら、手の届くところに宿木を見つけたんだ
嬉しくなって写真を撮ったんだよ
大好きな場所に行って少し深呼吸をして
芝生にテントを張って昼寝をしよう
春の暖かさのにおいが、起きたての朝を包むから
せっかくだから、そんな事を感じてしばし過ごそうと思う
少し、待って
魔法がつかえなくなってしまったの
だから、少しゆっくり歩かせて
魔法が帰ってくるまでの間
akaiki×shiroimi