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『切り裂かないけど攫いはするジャック』が「らしさ」全開超展開抱腹コメディだった

ヨーロッパ企画という変な劇団がある。京都を本拠地としつつ、各メンバーが各地でコンテンツを幅広く量産している。そんな彼らが毎年行う本公演は、メンバーが揃うコメディ劇であり、今年は19世紀ロンドンが舞台のミステリ(?)である。

ストーリーをさらっと書くとこうだ。人攫い事件が起こった街に刑事が聞き込みにやってくるが、情報提供者である住民たちがなぜか各自の推理を披露し始める。証拠を集めて自分が推理をしたい刑事は、事実ではなく推理ばかり聞かされるため一向に真相に近づけない。

舞台上に登場人物が増える度に場はかき乱され、カオスになっていく。実は○○だった!かと思えば本当のところは△△だった!というような展開がこれでもかと繰り広げられ、劇が進むほど真実は朧になっていく。

目まぐるしい推理の応酬に、舞台のあちらではあんなことが、こちらではこんなことがという具合で目と耳が忙しい。衝撃の展開にどよめきが起こったかと思えば笑いの渦に包まれている。ミステリなのに深刻さがほぼなく、台詞は駆け巡るのにリラックスして笑って観られる不思議な劇である。

前作の『あんなに優しかったゴーレム』やその前の『九十九龍城』は舞台に地上部分と地下部分、あるいは1階部分と2階部分などのように上下の移動があったが、今回は地面しかなく、舞台上で見えないものは想像で補わせていた。視点の移動が少ない分、観客からはステージの全てが見えているわけで、「観客には全て見えている」ことを活かした演出もあったのがおもしろかった。いずれにせよ、今回はシンプルな舞台で密度の濃い会話劇で勝負しているのが圧巻だった。

そしてこれはヨーロッパ企画ファンとしてのコメントであるが、いつも全員ハマり役だけど今回特にそうだったと言いたい。キャストそれぞれの特長が存分に活かされているのが素晴らしいと思った。老人役の角田さんの筋肉がナチュラルに日の目を見ていたし、諏訪さんとオルゴールの組み合わせや石田さんが果物売りの姿なのがあまりにもしっくりきていた。藤谷さんがピンと伸びた背筋でケロッと物を言う様子は推理婦人が過ぎるし、中川さんのわちゃわちゃした動きは他の人にはできない可笑しさがある。土佐さんの声は接続詞に似合うし、短いマントは酒井さんに似合う。金丸さんのツッコミはやはり冴えていて、永野さんは探偵姿でステージ真ん中に立つ姿がかっこよかった。

メンバーの力が結集した本作は、ヨーロッパの本領発揮といえるだろう。四半世紀の節目に相応しい肉厚抱腹推理コメディだ!


ロビーには舞台の模型が展示されていた。ロンドンの街角。


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