とある企業の賞レース【ショートショート】【#57】
社長:「それで……いくらだったの?今年は?」
部長:「これが聞いてくださいよ。今年は松で2000、竹が1500、梅でも1000は固いって話みたいなんですよ」
社長:「いやマジか!? 去年の倍近くするじゃねーか!」
部長:「そうなんですよ……ここ数年高騰してるのはしてたんですが、さすがにここまでとは……」
社長:「予定予算は?」
部長:「想定は1200で、高くても1500というつもりでした」
社長:「フタをあけてみたら2000か……。いくらなんでもこれはまた役員会を集めないといかんな」
部長:「来年はもっと上がる可能性もありますからね」
社長:「大体どいつもこいつもお手軽にステータスを欲しがりすぎるんだよ。実態と合致していないことなんて、こっち側の人間は誰でも知ってる。知らないのはバカな客だけだ」
部長:「そうですね。でも困ったことに大事なのはその『バカな客』をいかにだますか、ですからね。結局そのためにステータスは大事です」
社長:「まったくだ。しかしここまで高くなってはな……他の方法だって考えていかないと。こちらの身が持たない」
帰ってきた平社員:「ただいま戻りました! 社長……一体、なんの話をしてるんですか?」
社長:「あーあのな。最近、働き方改革とか色々言われてるだろ?お前も聞いたことあるだろ?」
平社員:「ええ、知ってます。有給使わないといけなかったり、残業少なくしたりしてるアレですよね」
社長:「そうだ。お前だってまだ若いんだからわかると思うが、残業がないとか、ハラスメントがないといった所謂『ホワイト企業』がもてはやされてるだろ?」
平社員:「そうですね、僕の周りでも男でも時短勤務してるやつなんかもいますし、同じ会社に一生勤めようなんて思ってるやつは少数派でしょうね。どうせ給料だって高くないし、上がるあてもないのだから、出来るだけ短い時間、必要最低限働いて、その分の給料がきちんともらえれば満足かなって……」
社長:「おいおい、お前そんなつもりで働いてたのか??」
平社員:「いやいや、あくまでも周りの話ですよ、周りの」
社長:「ふん、まあいい。まあそんなことをいうやつが多いから会社としては『働きやすい会社ですよ』、ということを前面に押しだしたいわけで、そのために一番効率的なのが、さっき話してた『ホワイト企業大賞』ってわけだ」
平社員:「あーあのうちも毎年取ってるやつですよね。正直うちってそんなにホワイトかな……?って思ってますけど」
社長:「お前……思ったよりズケズケ言うんだな。あのな……あの賞な。金で買うんだよ」
平社員:「……はい?」
社長:「今年はその値段が、最優秀賞が2000万、優秀賞が1500万、ノミネートでも1000万らしい。年々値段が上がっててな。エントリーすると、値段の目安教えてくれるから、その分振り込むと無事受賞できるってわけだ。どいつもこいつも『ホワイト企業』の称号が欲しいらしい」
平社員:「え、いやそれむしろブラックでしょ。それブラック企業大賞じゃん」
部長:「世の中ってのはな、そんなもんなんだよ」
社長:「だいたいうちがホワイトなわけがないだろう。くだらないこと言ってないではやく働け働け……」
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