見出し画像

単なる知人【ショートショート】【#27】

私と和彦さんとお姉ちゃん。

明日は結婚式だから、前祝に三人でご飯を食べに来たのだ。
場所は私が決めた。お酒も料理も美味しいねって和彦さんと何度も来たこの店。安くはないけれど、高すぎないこの値段も魅力だ。

和彦さんは仕事も忙しい人だし、なかなか時間の取れない中、今日も少し遅れてやってきた。和彦さんとの出会いは、今からだいぶ前……もう7、8年になるだろうか。知人が主催した飲み会で出会ったのが最初だった。

そこから、しばらく『単なる知人』を続けていたはずだけれど、いつの間にかそういう関係になった。お互いお酒が好きで、そういう場所で会うことも多くて、お互いフリーの期間が重なったというタイミングの勝利だろうか。

「おいしいご飯」を食べることを生きがいにしているところが、とても気が合った。どこそこの料亭が美味しいと聞けば、その料亭を目的にどこへでもすぐ飛んで行く。そんな行動力も魅力のひとつで、いつもわくわくさせられた。

そんな、美味しい料理の探求を至上命題とする私の中でも指折りのこの店。最初に二人きりでご飯を食べに行ったのもこの店。ささやかに結婚の前日を祝うのに、ここ以外の店は考えられなかった。

明日は結婚式。

私の大好きな『お姉ちゃん』と、私が大好きだった『和彦さん』の結婚式。

私と和彦さんは昔、付き合っていた。そのまま結婚することもあるかもって私は思っていた。でも、二年前のあの時、和彦さんからお姉ちゃんのことが好きなんだって言葉を聞いたときは、私じゃないんだ……ってただただ悲しくて、何も言わずに身を引いた。

そこから2年。二人は明日、結婚する。

私と和彦さんが付き合っていたことを、お姉ちゃんは知らない。結婚式を明日に控えた、幸せなカップルそのものだ。そして私は仲のいい『単なる知人』なのだ。

きっと明日、私は泣くと思う。
お姉ちゃんと、和彦さんの幸せを願って泣くと思う。


(今週は「#金曜ビター倶楽部」に討ち入りのため、本日金曜日ですが小説の更新でした。明日は普通のnoteにいたします)

#小説 #掌編小説 #恋愛 #式の前日 #金曜ビター倶楽部 #結婚式 #結婚 #ショートショート

「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)