サマソニ大阪綺譚【後篇】2019.8.16金曜日~音楽の話はしないよ~
サマソニ大阪綺譚【後篇】です。前編はこちら
■待ちに待った演奏開始
もう今日はダメなのではないか。
そんな私の思いは意外とすぐに裏切られることになる。
3時半は大幅に過ぎたものの、「ランシドから演奏スタートします!」とのアナウンスがされたのだ。
メインステージに集っていた人は一致団結してお祭り騒ぎ。そりゃあそうだ。ここにいる多くの人は、午前中からここに集って演奏が始めるのを心持にしているのだ。ついさっき来てうだうだ言っている私とは待っている時間が違う(笑
そして遅れること1時間。時刻は4時半を回ろうとしている。
ついにメインステージはランシドから演奏がスタートした。
さすがに大御所ランシドは力量がある。
ひとしきり楽しんで、前述した友人ともランシド後に合流。合流場所は救護室だったわけですけど(笑 とにかかくにも演奏始まったのは良かったですねとか、無理させないように気を使いながら近況話に花を咲かせる。
そこからしばらくは非常に穏便に進む。一人じゃなくなって気持ちも楽になるし、演奏もちゃんと進む。抜け出してカレーも食べた。
何処かのフェスで見なければ、見ることはなかったであろうRADWIMPSを見れたのも嬉しかった。
映画の曲(「天気の子」も「君の名は。」も)は一曲もやらなかったけど、これはもともとそういう方向性なのだろうか。しかし、広いところでできる実力のあるバンドなのね。バンドなのにバンドらしくないのは時に強みよね。
最後の曲は「いいんですか?」。見れて良かった。
そして最後はお目当てのレッチリだ。
■目指すはインフォメーション
というあたりで、またトラブルが頭をのぞかせる。
このnoteでは音楽の話はそっちのけで、トラブルの話しかしていないけれど、朝から晩までトラブルしか起こっていないのだから仕方がない(笑
サマソニ大阪の2016では、とにかくシャトルの大渋滞が問題になっていた。それを知っていたから帰りは結構気を使っていて、結局日帰りは諦め新大阪でホテルを取ったのだ。
多少巻き返したとはいえ、未だにタイムテーブルは40分程度押している。仮に……仮にだけれど、シャトルで2時間半かかったら新大阪まで帰れない可能性は十分にある。
その上、問題はもうひとつ。
私はご存じの通り行きはタクシーでここまできている。そして、今更気がついた私も悪いのだけれど、貰った冊子に気になる文字が並んでいるのだ。それは
”当日バス券”はコスモスクエア駅乗車所でのみ販売します。予めご注意ください。
という1文だ。
この文章をそのまま受け取れば、「ライブ会場では、当日のシャトルバス券は買えない」ということになる。
最初こそ、いやいやそんな馬鹿な。いくらなんでもそんなフェス難民を率先して作るようなことはやらないだろう。と思っていた。
でも、時間も差し迫るうちにだんだん不安になってくる。もちろん行きのようにタクシーで帰る選択肢はあるだろうけれど、大勢の人が同じような時間帯に、同じ場所からのタクシーを待つことになるのだから、待ち時間も相当かかるだろう。そもそもタクシーは定期的に来てくれると決まってもいない。
やはりシャトルに乗れるならシャトルに乗りたいところ。
そして、もう演奏は始まっている。
初めて見るレッチリ。演奏に関して言えば文句なくさすがとしか言いようがない。何がどうというレベルの話ではない。『魂』が違うのだ、そんな根も葉もない感想を抱いた。とはいえ私はレッチリの信者だから、信者の言葉ほどあてにならないものはない(笑
そしてどれほど演奏が素敵でも、心配ごとがなくなるわけでもない。
半日でも炎天下にいた体は疲れを訴えるし、帰れないのはどう考えてもきつい。色々悩んだけれど、背に腹は変えられない。途中で抜けて、まずインフォメーションにいってみよう。仮にシャトルに乗れなくても、多少早く出ておけばタクシーを待っても問題ないかもしれない。
そう思って、演奏が半分も過ぎたころだろうか。潔くレッチリを後にしたのだ。もちろん後ろ髪は引かれるけれど、伝説のバンドをひと目でも見れた満足感は相当なものだった。
さあ行こう。目指すはインフォメーションだ。
■二兎を追うものは精神をやられる
大人しくわき目もふらず、インフォメーションに向かえば良かった。
終わった今でこそ、そう思う。レッチリを途中で抜け出して、インフォメーションに向かおうとステージを離れたあと、悪い考えが頭をよぎってしまったのだ。
「何もインフォメーションまで行かなくても、スタッフさんならわかるんじゃないの?私と同じようにタクシーで来た人や、市バスで来た人もいるだろうし、帰りのシャトル券の情報ぐらいは共有されているんじゃないだろうか」
この発想は決して間違っていなかった。
それに、インフォメーションに行くだけでも20分かそこらかかるのだ。途中で方向性を決められるなら、それに越したことはない。
でも、間違っていなかったからこそ色々気を病むことになる。
*
とりあえず聞いてみよう。
そう思って近くのスタッフに声をかける。「シャトルの当日券は会場で買うことができるのか」と。しかし他の人と同じスタッフTシャツに身を包んだ彼の返答は
「あーちょっと先に行ったとこにいるスタッフならわかると思うんで、そっちで聞いてください」
というもの。
勿論一介のバイトだとは思うけれど、君はなんなのだ。そのスタッフTシャツは何のために着ている。というか「ちょっと先のスタッフ」って誰だよ。疲れているのと、焦っているのが相まって、この時は正直たらいまわしにされているようにしか思えなかった。ぐぬー。
気持ちは焦るばかり。こんなところで時間を取られてはいられない。先に行けというなら先に行こうではないか。どのみちインフォメーションまで行けばはっきりしたことがわかるだろう。
疲れて頭も回っていなかったのかもしれない。そのままインフォメーションに向かえばいいものを、結局私は「ちょっと先のスタッフ」で、「ちょっと偉そうな人」に聞いてみたのだ。
*
返答はこうだ。
「あー……ない事もないらしいんですけど……基本的にはないって聞いていてー残席があればって形らしいのでー、でもそれはーインフォメーションとかしかわかんないしーまぁそのー難しいと思いますー」
おーい……三枚におろすぞ。
終始歯切れが悪い上に、悪いことしちゃったなという雰囲気があふれている。いや、ないならないでいいの。はっきりしたことがわかればいいし、そこに罪悪感を感じてもらうのはむしろ迷惑だからやめて。中途半端が一番タチが悪い。
そして、結局インフォメーションに行かないと残席もわからないと。わかったわかった。途中で横着して聞いた私が悪かった。結果、シャトルに乗れなくても後は野となれ山となれ。
今度こそわき目も振らずにインフォメーションに向かったのだった。
*
日は落ちたとはいえ、あたりにはまだ人が沢山いる。
焦る私にははっきりいって障害物にしか映らない。そんな、人ごみをかいくぐること十数分。ついに到着インフォメーション。
「売ってますよー」
インフォメーションのお姉さんは一瞬の迷いもなく、返答は秒で返ってきた。忘れ物を探す人たちが押しかけて忙しい中、対応していただいてありがとう。
というか、普通にあるんじゃん……チケット。
今までのスタッフさんの反応はなんだったのか。この時ばかりは膝から崩れ落ちるかと思った。
もちろん「残席次第」というのも、嘘ではないのだろうけれど、それならそれで最初からきちんと説明してくれていればいいのだから。それに、冊子にはあたかも買えないかのように記載してあるわけで、中途半端な情報で人を惑わすのはやめてくれ。
そんな思いはあったものの、これで無事にホテルまで帰れる。
そんな安心感が心と足を軽くした。
■私のサマソニは終わりをつげ……
シャトル乗り場までは、少し距離があった。
途中、まだ演奏しているレッチリの音が風に乗って聞こえてくる。カリフォルニケイションという曲だ。レッチリを一番好きだった時期の代表曲のひとつ。
最後まで見たかった思いはもちろんあるけれど、そんな曲をBGMに歩くのは悪くない。
シャトル乗り場では何の問題もなくチケットを買えた。待ち時間もほぼなかった。流石に早く出てきた甲斐があった。シャトルが渋滞することもなく、ゆられること30分。無事に駅に付き、ホテルまではあと一息。
時間にも余裕があるし、コンビニで朝ごはんでも買っていこう。
軽く頭痛がするし、体は疲れを訴えている。でも色々あったけれど、レッチリも見ることができ、友人にも会えたし楽しかった。これもnoteのネタだと思えば、元も取れるだろう。
私の心は穏やかだった。
「旅する日本語」でいうところの「心安(うらやす)」な状態だ。きちんとホテルの場所も予約メールもある。ケータイの充電もまだ20%以上残っている。多少迷ったけれど、無事にホテルにつくことが出来たし、さあお風呂に入って寝ようじゃないか。疲れた体を休めようではないか。
フロントで名前を告げる。
「今日、予約してある『たけのこ』というものです」
「……たけのこ様……?ですか……んーーそうですね…………うーーん予約……ありませんね」
今度は流石に膝から崩れ落ちた。
私のサマソニはまだ終わりをつげないようだ。
(続きません)