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哀れな宇宙人【ショートショート】【#45】

「さて。では我が星に来た目的から話してもらおうか」

高い位置にある台の向こうに、黒いローブのようなものを着た男がいる。値踏みをするかのように、じっとこちらを見つめ、そう問いかけた。そして私が答えるよりも先に、横に座った男が立ち上がり答える。

「裁判長。大まかなところは弁護人の私から伝えさせて頂きます。この者は遥か彼方の『地球』という星から来たものです。核戦争の結果、地球の存続は危うくなり、一縷の望みをかけ移住可能な星を探すため一人探索の旅に出ることになり、我が星にたどり着いた模様です」

「なるほど。そうなると『地球』というのも既に瀕死の状態ということかね。それで……彼は、人間なのかね?」

いてもたっても居られず、私は立ち上がって声を荒げた。

「唐突に来たのは確かですが、こちらも危機に瀕している状況で切羽詰まっていることは理解していただきたい。事前の調査で、この星の環境は地球にほど近く、人類とほぼ同一と言ってもいい生物が繁栄していることがわかり、私はこの星に来ました。実際に来てみるまでは、にわかには信じられませんでしたが、今こうして対峙してみれば間違えようもない。私はあなたたちと同じ種族、『人間』なのです」

私は周りを見回し、反応をうかがいながら続けた。

「そして遠い彼方とはいえ、同じ種族が危機に瀕している。その状況に、できる範囲でかまいません。同じ人間として、私たち人間に救いの手を差し伸べていただけませんか」

急に現れた宇宙人は、どこからどう見ても自分たちと同じ種族であり、驚いたことに言語までほぼ同じ。それが急に助けを訴えてくるなどという状況は、急に理解しろと言っても容易ではないだろう。

「検査の結果はどうなっている?」

裁判長は横にいる医者らしき人物に尋ねた。

「彼の言う通り、我々と同じ『人間』で間違いないでしょう。そう断言して差し支えないかと」

裁判長は目をつむり、右手でアゴをなでながら考えこんだ。きっとそれが彼の考えるときのクセなのだ。

「……そうか、わかった。ではここに判決を言い渡す」

手元のハンマーを打ち鳴らし、大きな音が議場に響き渡った。

「この哀れな宇宙人を『人間』と認める。また衆人の皆様がご存じのように、我が星には2種類の人間しかいない。『食べる側の人間』か『食べられる側の人間』だ。これは我が星に、人間以外の種族が生き残らなかった運命の摂理であり、彼が人間であるならば、この摂理に組み込まれなければならない。そして私はここに、彼と彼の母星に残っている者たちの全てを『食べられる側』と認定する。これで当座の食料は安泰だ。すぐに準備をしてくれ」

議場は割れんばかりの拍手に包まれた。



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