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UXピラミッドで考える、ロンドンで見つけた身の回りの“いいデザイン” -ワクワク編-

こんにちは、株式会社アジケでUIデザイナーを担当していますサイトウです。

前回の記事では今年9月のロンドン旅行で見つけた、身の回りのいいデザインをご紹介しました。
今回も引き続きロンドンという街全体を『人間が生活するためのツール』として考え、いいなと思ったデザインを、UXピラミッドに当てはめて分解してみます。

↓前回の記事


UXピラミッドのおさらい

UXピラミッドを下層から上層へ満たしていく流れで考えた時、
前回は下層部分に当たるマストであるといい機能的な要件を「実用編」としてご紹介しました。

今回はいよいよ人の主観的な部分に踏み込み、
人の感情をポジティブに動かすことができるデザインを「ワクワク編」としてまとめております。


UXピラミッド

【レベル4】便利

前述したように、レベル4〜6はあったら嬉しい要素です。
レベル4では便利さが問われ、例えばWebツールであれば視認性が担保されているか、困ったときにすぐ解決へと進めるかなどが求められます。

■街中のゴミ箱の数と、分別の種類
ロンドンにいて、便利!助かる〜と感じたのは街に取り付けられたゴミ箱の量の多さでした。日本だとほとんどなく、あっても小さくてパンパンなことが多いですよね。
それに慣れていると非常に便利に感じます。

左から駅中、公園、空港にあったゴミ箱

また、タバコを捨てるエリアが備え付けられたものも多く、通りで道端に捨てられた吸い殻が少ない(ほとんど見なかった)のではないかと感じます。

左右からは一般ゴミ、中央上部に吸い殻を捨てるエリアがあるゴミ箱


■どこにでもあるヴィーガンメニュー
少々「デザイン」とは離れるかもしれませんが、
おそらく宗教上の理由でヴィーガンの方が多いロンドンは、どこのレストラン、カフェに行っても必ずといって良いほどヴィーガンメニューが置いてあります

また、「アレルギー不耐症がある方はスタッフまで相談してください」と言った張り紙もほとんどの食品店に貼られていました。

自分も含め、友人にも卵アレルギーや乳糖不耐症の子がちらほらいるためため、ロンドンに行っても最低限の食に困ることはないなと感じられた文化でした。


【レベル5】嬉しい・楽しい・心地よい

あったら嬉しい要件の2つめは、
そのデザインが使い手の心境にポジティブな影響、変化を与えられるかが問われます。
ユーザーにいかに『楽しいな、嬉しいな、ここに時間やエネルギーを使いたいな』と思ってもらいながら、課題を達成させることができるデザインになっているかがポイントになります。

■募金したくなる募金箱
デザインミュージアムの入り口に配置されていた募金箱は、『あなたにとってデザインとは何ですか?』という問いかけがあり、それに対する答えを募金する形で意思表示をする工夫がありました。

手前から直訳すると、⑴イノベーション、⑵実用的な美しさ、⑶大胆な進歩、⑷未来そのもの、⑸ユーザーファーストで考えること、⑹アイディアが現実となること  

皆さんはどこに入れますか?
私は手前から2番目の、実用的な美しさにいくらか小銭を入れました。

まさにUXピラミッドで考える『下段の実用性+上段の情緒的な価値』を合わせた表現で、募金の量を見ても共感者が多いようです。

ロンドンの美術館や博物館は基本的に無料で入ることができ、必ず入り口などに募金箱が用意されていますが、
このように募金をして欲しいという課題に対し、このようにユーザーに楽しく能動的に行動を起こさせる仕掛けがある場所は珍しく、さすがデザインミュージアムならではの工夫だなと感じます。


■メンタルケア系のカードゲームやワークブック
ロンドン市内の雑貨屋さんを見ていると、メンタルケアに役立つカードセットや、自分について知ることができるゲームを見かけることがありました。

日頃から、気軽に楽しく知識を得ながら心の健康に向き合うことができてとても素敵だなと感じました。

ハイストリート・ケンジントン駅近くの雑貨屋さんの一角


中でも気になった、「The School of life 」というブランドのグッズを4つご紹介します。

写真はThe School of life公式通販サイトから

①「EMOTIONAL BAROMATER(気分バロメーター)」
今の気持ちについて、どういう状態なのか客観的な視点で説明してくれるカードのセット

②「Emotional First Aid Kit(心の救急箱)」
気持ちがいっぱいいっぱいになった時、該当する気持ちに対する処方箋がカードになって入ったカードセット

③「KNOW YOURSELF(自分を知ろう)」
カードに書かれた質問に答えることで自分は何者なのかのヒントを得られるようなゲームセット

④「WHO AM I?(私は誰?)」
質問や用意されている項目に沿って考え記入していくことで、自分は何者なのか向き合い、理解を深めていくことができるワークブック

↓The School of life公式通販サイト


■メンタルケア系書籍のポップなカバーデザイン
こちらはメンタルケア系の書籍です。

タイトルだけ見ると「不安」「社交不安」「うつ」「ストレス」といった直球な表現ですが、装丁がポップで美しく、部屋のインテリアにしても全く心が暗くならない気がします。

ネガティブな気持ちは人間誰にでもあるものであり、それを悲観的に問題視するのではなくポジティブに、なんならアートを楽しむように堂々と、素直に美しく向き合あう姿勢を手助けされているように感じます。

テート・モダン美術館のお土産屋さんの一角


■興味を惹かれるLPデザイン
街中を歩いている時に、ふと見つけた看板のQRコードを読み取ったことで出会ったLPのデザインです。

たまたまその場で知ったロンドンデザインフェス2022のLPだったのですが、何だか文字の上を邪魔するように赤いドットがぷかぷかと浮かんでいるのです。

普段ならばLPを開いても数回スクロールをしたらすぐに閉じてしまうのですが、このドットが気になりタッチしたりスワイプしてみたりとしばらく触っていました。

結局ドットをタップしても何も起こらないただの装飾のようでしたが、つい利便性を追い求めるデザイン作成において、特に機能をするわけではない(なんなら文字を邪魔して読みづらい)けれど世界観を盛り上げる遊び心のある要素は個人的にとても好きで強く印象に残りました。

↓ 該当ページ(SPで開いた時のみドットが出てくるようです)



■住宅や建物の外観
ロンドン市内の高級住宅は、どこも王国らしい、ヨーロッパ建築で飾られています。

建築に関しては詳しくないためあくまで個人的な感想になりますが、日本では、余計なものを削ぎ落とすミニマリズムが好まれている印象を受ける一方で、ロンドンはいうならばその反対のマキシマリズムが人々の美意識の根底にあり、とても華やかな街並みを楽しめます。

街角は大概このような華やかなお花とエレガントな看板で飾られている
一部屋4億も珍しくない高級住宅


【レベル6】価値がある

いよいよ最高峰のレベルに到達しました!
最後のレベル6では、そのデザインは社会的に意義があるものなのか、人々に気付きを与えられるものかどうかが問われます。

■ LGBTQフレンドリーの意思表示
街を歩いていて印象的だったものの一つは、LGBTQフレンドリーの意思表示が、公共の場でも見られることでした。 

日本でも制度を見直そうとしたり、ショップでは虹色の旗を受付に立てて意思表示している光景を見るようになってきましたが、
街を歩く限りだと、ロンドンではもっと普遍的な概念として根付いている印象を受けました。

電車の広告。女性カップルとみられるモデルが器用されている。
(左)ヴィクトリア&アルバート美術館のホールに掲げられたレインボーフラッグ (右)ロイヤルオペラハウスのグッズショップにて、グッズのカラーバリエーションにレインボーがある


さらに、皆さまもお気付きのように、旗のデザインがただの虹色ではなく、旗の左側に三角の模様が付いているタイプが主流のようでした。

これはLGBTQの概念にプラスして、トランスジェンダーの人々や人種差別運動、HIV患者への支持を表している「プログレス・プライド・フラッグ」です。

よく見る虹色単色のプライド・フラッグは1978年に作られたものに対し、プログレス・プライド・フラッグは2018年にデザインされた新しいものであり、こちらが主流となっている光景は、多様性への人々の活動が進んでいるように感じられました。

参考:https://www.vam.ac.uk/articles/the-progress-pride-flag


余談になりますが、ハリーポッターの9と4/3駅のモデルとなったことで有名なキングスクロス駅の近くには「Gays the World」というLGBTQ専門の図書を扱った書店があります。

LGBTQに関わる様々なジャンルの本に加えて子供用の絵本もたくさん揃えられている光景も見ることができました。

「Gays the World」の外観と店内(撮影許可取得済み)
(左)クィアの人々向けのメンタルケアワークブック (右)LGBTQ関連の子供用絵本コーナー

↓ Gay's The World公式サイト


■デザインの価値の啓蒙
デザインミュージアムという、常設店なら無料で入れる美術館で見つけた当館のポスターデザイン。
デザインとは何か、という問いを「Design. Humanity`s Best Friend.(直訳:デザイン、それは人類の親友)」と言語化した表現がとても心に響きました。

デザインミュージアムの入り口付近

解釈は人それぞれながら、私は「人類に不可欠なもの、いつでもすぐそばにあり、寄り添いあうもの、楽しい時間を作るもの」といったニュアンスで受け取りました。
日本ではまだまだデザインは格好をつけるものという印象が根強く残っている気がする一方で、こういった当たり前ながらも大切なものだよ感を出した表現は素敵だなと感じました。



いかがでしたでしょうか。

ちょっとした一週間の旅行記のようにもなりましたが、あったら嬉しい+価値を生み出すデザインの大切さ、直感的な楽しさを少しでも多くの方に共感していただけるととても嬉しいです。

ロンドンにはロンドンに住む人に合わせた仕組みが発達していることが前提ですが、改めてレベル1からレベル6の要素を振り返って見て、やはり先進的な考え方が街のデザインにも現れているなと個人的に強い印象を受けました。

日本でも人種の多様化や脱炭素やキャッシュレスへの取り組みは今後も加速していくと考えられるため、その実装の仕方は進んでいる国からヒントを得て真似したり、改善しながら取り入れていきたいなと感じます。

そして何よりも、人々が便利!楽しい!さらには社会的な価値を生み出すことで1人でも多くの人が心地よく暮らせるような要素、UXピラミッドでいうあったら嬉しい要素を追い求める姿勢を失わずにデザイン活動に励みたいなと改めて感じます。

日本も世界の国々に負けない魅力が詰まった国だと思います。
デザイナーの皆さまも、ノンデザイナーの皆さまも、皆で手を取り合って、より楽しい生活の場を作っていきたいなと、気軽ながらも真剣に思うこの頃です。

長くなりましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。

おまけ:装丁が美しくカバーの色で揃えたくなる文庫本シリーズ (世界で最も美しい書店とも言われるDAUNT BOOKSにて)




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