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これが、ぼくの原風景(すばらしい季節/ターシャ・テューダー)

冬から春へ 夏から秋へ 季節が変わっていくとき
サリーは じぶんのからだを ぜんぶつかって
それを たしかめます

ぼくは、閉鎖的な部落で生まれた。小学校高学年になるまで、一人で部落を出ちゃいけなかったし、ぼくの実家は、周辺の家の本家(?)で、その子どもであるぼくを疎む子もいた。実家は実家で、長女のぼくは理不尽なことでも我慢しなきゃいけないことが多かった。「肩身が狭い」ということばを知らなくても、それを痛感する日々だった。(8割は性格のせいだった気もするけど。)


どこへ行っても付いて回る名字。選べない友人。素で振る舞えば奇妙な顔をされる実家。そんなぼくは、一人で探検するのが趣味だった。田舎で自然は豊かだから、いくらでも遊んでいられた。誰かといるのは、ぼくを寂しくさせたけど、自然はそれを和らげてくれた。


になると、つくしを摘んだ。小学生にもなると、たくさん生える場所は覚えた。それから、よもぎも。持って帰ると、おばあちゃんがすり潰してだんごにしてくれた。


になると、冷たい湧き水を飲むのが好きだった。山の中にある畑へ一人で出かけ、仕事中のおじいちゃんとおばあちゃんに会いに行く。畑のそばにも湧き水があって、誰が用意したのか湯呑みまであった。おじいちゃんは汲んだ水を飲ませてくれた。


になると、栗を拾った。道路わきにぽつんと立っている栗の木があった。子どものぼくに、その木はとても大きく見えた。足下に大量に落ちている栗は拾ってもいいらしいので、服の裾を引っ張って、たくさん持ち帰った。おばあちゃんが、うちで栗ごはんにしてくれた。


は、ほとんど毎年雪が積もった。実家には庭があるので、まだ足跡のないそこで、ちっちゃな雪玉でちっちゃな雪だるまを作った。誰にも見つからないように、庭の隅にこっそり置いておくのだった。


野花を摘んで、ガクを抜いて蜜を吸うのが好きだった。探検で培ったスキルを使った自由研究で賞を獲ったときは嬉しかった。父親に怒鳴られたときは、うちを逃げ出し、どこかの屋根の下で空をじっと見上げていた。雨が降っていた。『すばらしい季節』が、幼いぼくの友達だった。

あなたのまわりにも
こんなすばらしいことが たくさんあって
きっといつも あなたが 気がついてくれるのを
まっています

これが、ぼくの原風景。今でも、身近ですてきなものを見つけるのは、とても得意だ。

6/23更新

すばらしい季節 - ターシャ・テューダー(翻訳:末盛 千枝子)(2014年復刊)

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