美しき、百“希”夜行(夜天/女王蜂)

今、『先が見える人』と『先が見えない人』は、どちらの方が多いんだろう。


終わりが見えないなんちゃらウイルスに、もしかしたら明日起こるかもしれない震災に。


行きたい場所へ、行けない。


誰かに会いたいのに、会えない。


ピリピリした現実。


あっちを向いても、こっちを向いても、一寸先は闇。


自分のこともそうだけど、自分が好きな人達も。


たとえば、好きなミュージシャンのこと。


僕の大好きなバンド・女王蜂の初の武道館公演が、2月に控えている。


去年は、行われるはずだった全国ツアーも、初のホール公演も、全て中止になった。


今まで延期になり、そして中止になった多くのミュージシャンのライブを、僕は思い出す。そして、その末活動休止になった彼らを。


僕は願った。


どうかこれ以上、女王蜂からライブを奪わないでください。


そんな矢先に、新曲が発表された。


『夜天』


最初は、タイトルとCDジャケットの印象から、「真っ暗な夜」の歌だと思った。


けれど、英題は『STARRY NIGHT』。


満天の星空。


『夜天』はその通りの曲だった。

あの頃には戻れないことを思い知るの
それでも喜びはいつも見出すものと、忘れないでいたい

――女王蜂『夜天』より引用

この曲を初めて聞いたのは、12月のバースデーライブだった。


(このライブは、徹底した安全管理の下無事に決行された。)


希望だ。


僕は思った。


『先が見えない人』にとっての希望。


考えてみれば、女王蜂はいつでもそうだった。


どんな不安の渦中でも、彼女達は希望の上を歩いていた。


自分が道の外れにいたとしても、彼女達が先導してくれるから、いつだって光を見ることができたんだ。


女王蜂の根底にあるのは、『肯定』だから。


Q.何に対する『肯定』?


A.全て。あなたが想像しうる、あらゆるもの。


だから、「自分なんか」と卑下しなくていい。


たった一人きりで、長い夜を耐えなくてもいい。


そんな夜は、『夜天』のことを思い出してほしいと思う。

思い詰めてしまった夜の果てわたしたちは出逢い
持ち寄る孤独は星たちのように 胸に宿り
胸に宿し続ける

――女王蜂『夜天』より引用

MVで、ボーカルのアヴちゃんは、妖怪に扮した人達を引き連れている。


たぶん、百鬼夜行をイメージしているんだろう。


けれど、彼女が――彼女達が本当に誘導しているのは、きっと僕らだ。


美しき、百“希”夜行。


たとえ、今は先が見えなくても。


孤独を持ち寄った僕らは、希望の上を歩いている。

夜天/女王蜂(2021年)

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