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それは、あまりにも小さなことだけど

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「それ」は、生とか人とか。取るに足らないことかもしれないけど。それでも。(短編集)不定期更新。
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2021年3月の記事一覧

閑古鳥は“ビイ”と鳴く(4027字)

「どこをほっつき歩いていたんだ」

 帰宅するなり、頭上から不平不満がたらたらと。いつもなら無視するけど、今日は顔を上げて視界に入れてやる。

 視線の先――玄関の軒先には、頬杖をついて腰をかけている烏天狗。

「ほお、珍しいな。お前がこの俺を無視しないとは」

「とりもちアタック」

「ぎゃああああ」

 懐に忍ばせていたとりもちを手当たり次第に投げつけると、烏天狗はこの上ない悲鳴を上げた。

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笑って、笑って(1623字)

この国では、“マスク”の着用が義務付けられている。

“マスク”は、数十年前に比べるとかなり変化した(僕が生まれたときは、すでに現在の“マスク”だったから、教科書でしか見たことがないけど)。

従来の“マスク”がカバーできるのは、せいぜい鼻から顎までで、しかも安価なものは布製だったらしい。

現在の“マスク”は、前髪の生え際から喉の辺りまで、余すことなくカバーされている。しかも、特殊加工のおかげで

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