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へそ出し事件 『最善手ドリル』★13★

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こんにちは! 藍澤誠です。

今日の最善手ドリルは「集中力がない子が、いきなり授業に興味を持った日」についてです。

【問題】

小4の女の子「キャンキャン」は、すこし変わった思考の持ち主です。たとえばある日、塾の窓を開けて(当時、塾は3階にあった)、シャツをまくりあげ、おなかを外に向けていました。彼女がそうしている理由はなんだったと思いますか? なんと彼女は

「おなかを出す→風邪をひく→明日のピアノに行かなくていい!」

というプランを描いていたのです。しかし、このへそ出し事件のその日、キャンキャンは大きく成長しました。「自分はなぜ勉強するのか」がはっきりつかめたのです。彼女が勉強を始めたきっかけとなった、先生の側のアクションは、次の3つのうちどれでしょう。

①教室にある毛玉取り機で遊ばせ、思い切り現実逃避させた。
②ピアノの練習を一緒にして、興味に思い切り寄り添った。
③風邪をひくと家族が悲しむよと、因果関係を解説した。

制限時間:3分

【解説と解答】

まず【②:ピアノの練習】はあり得ない。こういう場合「ピアノが嫌という確率は低い」のだ。「ピアノの先生が嫌」とか「ピアノを親にやれと言われている状況が嫌」とかが原因で、ピアノそれ自体が嫌いということはほとんどない。だから、教師が彼女に思い切り寄り添い、仮にピアノの楽しさを思い出してもらえたとしても、彼女が置かれている状況自体は変わらないのだから、ここは選択肢から外れる。

次に外れるのが【③風邪をひくと家族が悲しむ】と、因果関係ベースに説得する選択肢。これが有効になるのは、性善説というか「子どもが家族のことを大切にしている」という前提が必要で、そうでない場合も多い。親の価値観に対して「否」と言っている少女に対して、「親が悲しむよ」と言っても仕方がないのは明らかだ。もちろん口では「否」を唱えていながら、実は親のことを「好き」というパターンもある。しかし一般的に「親=大切な存在」という前提に立たない方が、取るべき行動が絞りやすくなる。

例えば、「生徒の誕生日には、塾がない方がいい。なぜなら、家族で祝ってもらった方がいいから」という当たり前そうにみえる図式も、ぜんぜん鉄板ではない。家族よりも友達と過ごしたい、塾で祝われた方が100倍嬉しいという子もいる。置かれている家庭環境は、ぜんぜん違う。そういう場合は、あらかじめ「誕生日と塾の日がかぶってるけどどうする?」と聞くと良い。生徒の中には塾でも家でも祝ってもらいたいというツワモノもいるだろう。

最善手:①教室にある毛玉取り機で遊ばせ、思い切り現実逃避させた。

◎実戦の棋譜を見てみよう

いつものドリルなら「毛玉取り機で遊ばせてどうする」という感じで、即却下されてしまう選択肢に思えますが、今回はこれが最善手です。この小学生が「変わった思考の持ち主」という問題の条件も重要です。

本人がピアノを休むのに、親に相談したり、ピアノの先生に対し、指導方法の修正を要求していない時点で、一般的な因果関係の整理で解決するのは不可能だと判断します。そもそも低学年ですし。そこで浮上するのが【①現実逃避】です。

「お腹を出していても、寒いだけでたぶん風邪は引けないよ」と諭し、それなら毛玉でもとって気分を上げていこうと提案しました。ピアノが嫌過ぎて、へそを出すという追い込まれ具合をしているのだから、まず不安を解消するのが第一という判断です。不安の解消法にもいろいろありますが、問題解決とはかけ離れた、ぜんぜん違うことをする、しかも、ちょっと役立つ現実逃避をするというのがオススメです。

『片づくためのストーリー』にも書きましたが、そういうときには掃除がベスト。そして『毛玉取り』もなかなか効果的でした。小4キャンキャンは、毛玉取り機なるものが、この世にあるということを知りませんでした。さっそく自分の着ていた服と、私の手袋に出来た毛玉を取り始めました。

ズキュキュキュキュ

軽快な音を立てて、毛玉取りの刃は、毛玉を刈り取ります。

うぉお! すごっ! これ発明した人、すごっ!!

キャンキャンは感激していました。テンション急上昇! 教室に同じ時間に、となりで勉強していた小3女子トゥイースの着ているセーターの毛玉まで取り出しました。

「こわい! やめてよ」トゥイース
「わはははは!」キャンキャン

人によって、感動ポイントっていうのはぜんぜん違いますよね。

私は小1のときに、サーモメータみたいなものがついている手袋を持っていたのですが、この手袋がかっこよくてドキドキしたのを、今でも覚えています。塾の子には、「初めて見た!」「初めて使った!」という体験をたくさんさせてやりたいと思って、教室にいろいろな物を置いています。

感動している少女に、私はもちろんウソ情報を教えました

「超強力! これ考えた人天才!」とキャンキャン。
「それを考えた人もね、キャンキャンと同じでピアノやっていたんだよ」
「え?! そうなの?」
「その人、嫌なことで頭がいっぱいで、何か嫌なこと忘れるいい方法ないかなって思って、毛玉取り機を発明したんだ」
「そうなんだ!」とキャンキャン。
「すごーい!」とトゥイース。

ここで「それウソだよ」、って突っ込む年上の子がいると良かったのですが・・・。

「毛玉をたくさん取れば、その人の親も喜ぶしね。そしたらピアノ休んでいいって言う確率上がるし。なんなら、ピアノ教室に毛玉取り持って行ってもいいし」
「そっか!」
「ぜんぜん関係ないことで、解決するってパタンがあるからさ、風邪とか自分が嫌になることじゃなくてさ、もっと自分が好きな、ぜんぜん違う楽しいことでもしてた方がマシだよ。わかった?」
「じゃあ、ウチ、勉強する!」
「え?!」
「ウチ、勉強楽しいから」
「そうなの?!」
「ウチも!」
「そっちも?!」

そして、なぜか勉強が超苦手な少女2人が、いきなり張り合うように勉強しだしたのです。まったく意味がわからない展開でしたが、勉強が現実逃避に成り得るというのは、大きな発見でした。そう言われると、成績が悪いだけで、彼女たちは勉強を楽しそうにやっていました。

そしてトゥイースの父(緑色のセーター着用)が玄関に迎えに来たときにキャンキャンが発した言葉は・・・

父「ありがとうございました」
私「今日、勉強がんばってましたよ」
トゥイース「そんなでもないよー」
キャンキャン「おお! すげー! でっかい毛玉が来た!」



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