#1 PhotoshopよりCanvaやスマホアプリじゃなぜダメなの?
現在就労支援施設で、主に発達障害や精神障害のある方にAdobeソフトを使ったデザインを教えているaisanと言います。
web制作やクリエイティブ業界で長く身を置いていたこともあって、私にとって何かしらの製作物を作りたい時にPhotoshopを使うことは「当たり前」の感覚だったのですが、就労支援施設でデザインに興味がある利用者さんと話していると、私が考えたこともないような質問をされることがよくあったので、どうしてそのような疑問が浮かんだのか、その質問にどう向き合い、どう答えたのか、知見として共有したいと思い記事をまとめました。
Photoshopで何ができるの?Canvaやペイントじゃダメなの?
デザインに興味があっても、Photoshopを使う理由が分からない。無料で使える良いツールがたくさんあって、写真補正や切り抜きや文字入れもできるのに、Photoshopじゃなきゃできないことってなんですか?
こういった質問をめちゃめちゃよく受けます。
Photoshopでなんとか食いつないできた私としては、カルチャーショックというか、考えたこともない質問で、初めて聞いた時はとても驚いたことを覚えています。
無料の良質なツールの進化と、若者のお金のなさ
就労支援施設に訪れる方の年齢は施設や地域によってさまざまだと思いますが、私にそういった質問をしてくる方は比較的若めの方が多い傾向を感じました。
無料のツールが全然悪いとは私は思っていません。Canvaは私もよく使っていますし、ペイントも未だに軽く画像のトリミングがその場で出来ていいツールです。
Canvaも突き詰めれば色々な機能がそろっているので、Canvaだけである程度の製作物をつくることも可能だと思います。
この問題は、Canvaの良しあしではなく、現代日本のデザインに興味のある若者にとって、Photoshopより無料で使えて数分で素敵なデザインを作れるCanvaや無料スマホアプリの方が魅力的で心の距離が近いんだな、と感じたことにカルチャーショックを受けました。
しかし私は就労支援施設に勤務しているので、就労が目的でデザインを学ぶのが利用者さんの望みなのであれば、現在の日本の就職市場でPhotoshopやIllustratorといったAdobeソフトを使うメリットを分かってもらわなければなりません。
拒否反応の言葉を丁寧に拾う
Photoshopを学んで習得するぞ、という具体的な意識をもって入所される方は私の職場ではまれな方です。
「なんとなくデザインを学んでみたい」という温度感の方、「いろいろやってみたいからデザインもやってみたい」「在宅ワークでデザインをやってみたいから覚えたい」と言う方、熱意もグラデーションのように様々な方がいます。
ある程度Photoshopがどういうものか知っている方や、並々ならぬ熱意がある方はそうではないですが、多くの利用者さんが最初にPhotoshopをさわると、
「さわるところが多くてどこを見ていいかわからない」「文字が小さい」「書いてある言葉になじみがなくてわからない」
と拒否反応を起こします。
そして市販の初心者向け教本を使ったり、Adobeことはじめの動画教材を使って取り組んでもらうのですが、必ず何割かの利用者さんが途中でモチベーションを落としてしまいます。
その時によく聞く言葉が、「色を変更したり、切り抜いたりはアプリでもできるのに、わざわざ複雑な操作をしてPhotoshopを使う理由がわからない」「Photoshopって、何ができるんですか?」という問いかけでした。
障害特性で「納得がいかなくてもやってみる」ことが苦手な方もいますし、「ゴールがイメージできないと立ち止まってしまう」方もいます。
私は、まず選択範囲のとり方や解像度の基礎を教えるよりも、
「Photoshopで何ができるのか」を利用者の皆さんに明確なイメージとして提示することが自分の課題だと感じました。
Canvaで画像を作ってもらう
そこで、Instagramを使ってみることにしました。
「Canvaで好きなようにInstagramの画像を作ってみて。同じものを私もPhotoshopで再現します」と利用者さんに伝えて、CanvaでInstagramの画像を作ってもらいました。
これはこれで素敵なので、このデザインをベースにして、Photoshopで私が表現するとしたらこうなります、というデザインを作成することにして、Photoshopでできることをイメージしてもらいます。
Canvaで作ったものをPhotoshopで再現する
利用者さんが作ってくれたCanvaのデザインを生かしつつ、私がPhotoshopにしかない機能でできるだけ使用して再現したものです。
具体的には、上下の帯が入って画像がぶったぎれてしまう印象があったため、うまく画像を「ぼかし→ガウス」などのフィルターと「クイックマスク」「スマートフィルター」を組み合わせて、部分的にピンボケのようにぼかしました。
文字に関しては、最近画像の上にドロップシャドウで文字を載せる効果が流行っているので、そちらのほうがやりたいイメージに近いのではないかと推察し、デザインフォントを選び、白抜きにぼかし多めのドロップシャドウを乗算で重ねました。
あとは細かいですが、覆い焼きツールをつかって木漏れ日のような表現を左上に付けたして、写真の奥の房と手前の房でコントラストが出るように奥の房のみガウスぼかしでピンボケ風に処理しています。
CanvaとPhotoshopで作ったものを比較して感じたことを教えてもらう
ここで自分の技術をドヤるのではなく、私が作ったPhotoshopのアウトプットの方向性を利用者さんがどう感じるかが大事なのでヒアリングをします。
ここが良いと思った、こういうことをやりたい、いやもっとこういう方向性のことをやりたい、もっとこうできないか。
そういった利用者さんの感想から、どういったデザイン(グラフィックが好きなのか、写真編集が好きなのか、デザインの基礎やレイアウトに興味があるのか)方向性や志向を把握します。
このヒアリングが技術的な支援の質に繋がると私は考えています。
自分の技術レベルを上から押し付ける教え方はNG
ここで大事なのが、飽くまで私は「利用者さんがPhotoshopを学ぼうと自発的に思ってもらうために、ゴールイメージを作っている」という点に集中したことです。
最初から、「お前のスキルレベルで何を言っているんだ」「デザインならPhotoshopを学ぶのは当然じゃないか」という前提で対応するのではなく、
利用者さんが何を疑問に思って何を知りたいか、Photoshopを使って一緒に答えていくという姿勢が障害福祉という場では必要だと思っています。
「お前がCanvaを使って作ったものが、私ならPhotoshopでここまでできる」ということを上から見せつけるようなサポートの仕方にならないように、関係づくりに時間をかけ、言葉選びに留意しながら、楽しく習得する場にしたいと常に心がけています。
Photoshopが助けてくれる
私は幸い幼少期からPhotoshopを使う環境が家にあり、アルバイトからPhotoshop経験ありということで就職にありつくことができ、人生の局面でPhotoshopに助けられてきた場所が沢山ありました。
今は利用者さんにPhotoshopのことを教えながら、自分でも新しい技術や知らなかったことを利用者さんから学ばせてもらっている気持ちです。
何かを作りたいと思った時、仕事をしたいと思った時、Photoshopはいつも私を助けてくれました。
なので私にとってPhotoshopは相棒のような存在です。
私がPhotoshopに対して信頼している感情や、人生を通してPhotoshopで楽しくものづくりできているポジティブな感情が利用者さんに伝わったら嬉しいなーと思いながら、日々支援をさせていただいてます。
今でも、就労支援と言う場所で何かに迷った時、利用者さんとの習得支援に躓いた時、それでもPhotoshopと仕事ができる限り私は大丈夫、という気持ちが私を勇気づけてくれます。
今後もAdobeソフトでデザインを教える支援を続けていきます
本日は利用者さんとPhotoshopのファーストアタックの話をCanvaをまじえて述べさせていただきましたが、今後もちょこちょここういった記事にまとめていきたいと思います。
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