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最期のことば

父も伯父も高齢者になる前になくなってしまったのであるが、死因となった病気も同じだった。だが、死期を悟った時の家族への接し方は違っていた。
父は母に向かって「俺、もうダメだよ。天に召される。」と言った。父は宗教を毛嫌いしていたが、死期を悟ると天などという単語を口にした。ただ私に対しては、そういう言葉をつかわず、いつも通りに接した。
伯父は子供(私から見た従姉)に涙声で「悔しい。」と言ったが、伯母には、そういうことは言わなかったという。
私は父との関係が良好ではなかったが、従姉と伯父は良い関係だった。また伯父は伯母に対して「お前なんか好きでいっしょになったわけでないから、嫌ならいつ出て行ったっていいんだぞ。」と言ったりしていた。 
死期を悟った時、家族の誰に弱音を吐くかは、家族との関係によって決まるらしい。そして、家族のうち、ひとりに言えば、もうそれでいいようである。父は私に自分の最期に、それらしいことを何も言わずに逝ってしまった。私は後悔したが、後の祭りとなった。

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