見出し画像

8月9日、片足では立てない

※少し血や痛い表現があります。

「看護婦さん、足が痛いさ。さすってくれんか」
透析の病棟で看護助手をしていたときのこと。その患者様は右足の痛みをよく訴えた。特につま先を痛がる。
私は布団の上から「布団を」大袈裟にマッサージしてみせた。
「もっと力込めてマッサージしましょうか?左足はどうですか?」実際にはマッサージなんてしていない。そう見えるように演じていた。
「上等やさ」それを患者様は気づいていない。
むしろ痛みが和らいだと微笑んでくれる。
「そうですか。よかったぁ。先生にも痛いよって、伝えときましょうね」
これでしばらくは、穏やかに過ごせるだろうか。

透析病棟には、四肢の壊死を起こし切断を余儀なくされた患者様が数名いらっしゃった。
この患者様も右足を膝関節から切断していた。認知症状も見られたから、切断した事実を忘れている。

若い方でも切断を余儀なくされると、失った部位の痛みに襲われることがある。幻肢痛という。無い部位なのでできる治療は少ない。
看護師でもなければなんの力もない。私の唯一できることは、共感してあげることだけだった。それで良ければいくらでも…。

長崎には中学の修学旅行で行った。
沖縄同様、平和学習への取り組みに力を入れている。
平和公園に行った。糸満と似てるなぁと思った。

地上戦と原爆。被害の内容には違いがある。
とはいえ、共通点もある。
一度受けた傷や病気の治療が困難な環境。それを医療従事していない者たちで支えなければならなかったことだ。
沖縄ひめゆりの女学生は看護学生ではなかった。将来の女性躍進、または良い家庭に嫁げるように学生になったエリートたちは看護技術を学んではいない。
彼女たちは医療技術のない中、上官の指示に従い壊死部位を麻酔なしでノコギリで切断したという。
動けなくなった兵士たちに水や食事を与え、最低限とも言えないケアを、知識の無い中どうにかした。

長崎では一気に悪化した医療環境、未知の爆発による放射線被害に大変な思いをした。
明らかに長くないだろう血だるまの家族を家でどうにか面倒を見たという。
孫が、祖父だとは見分けもつかないほど人の姿を失った姿に絶望しながら看病したという。
動かない足を支え皮膚の悪い体をおぶったときに、自分の背に膿や血が染み込むのを覚えているという。

広島の原爆を描いた作品でとても衝撃的だったのは、やはり「はだしのゲン」だった。内容もさることながら絵が妙に具体的で、嫌でも現実だったのだと思い知らされた。漫画はどうにか読み切ったが、アニメ版は原爆の落ちた段階で先に進めなかった。泣いた。

長崎の作品で印象的だったのは、実はちゃおで連載されていた「こっちむいて!みい子」のある一話だった。
絵柄は小学生でも低学年向け。小学5年生のみい子の日常を面白おかしく描いた作品。内容は話によっては道徳の教科書並みに考えさせられることがある。

子供の頃の記憶のため、念のためネットで検索した。長崎のエピソードがあるか探したところ、割と多くの方がこの話を覚えていることがわかった。

…みい子がいとこに会いに長崎に行く。片足立ちの不思議な鳥居を見つける。そこでもんぺや防災ずきんの格好の妙な子どもたちと遊ぶことになる。
最初は不気味に思うみい子だが、打ち解け楽しく遊ぶ。あの鳥居は普通の鳥居のようにしっかり両足で立っていた。
唐突に目の前がぴかっと光り、みい子も子どもたちもとても驚く……いつの間にか子どもたちは消え、鳥居は片足だった。
みい子は原爆投下の瞬間を疑似体験していたのだ。あの鳥居も爆破で崩れたものだった。

という内容だったと思う。気になった人は単行本2巻の話らしいので読んでみてほしい。
作者のおのえりこ先生が実際に取材に行ったエピソードも載っていたはずだ。
この片足鳥居は長崎市山王神社の鳥居である。原爆被害の遺産である。今も昔も子どもたちの良い遊び場でもあるらしい。
その光景を見たことはないが、その平和が続けばいいと思った。

中学のころ、長崎の平和公園で大きな像を見た。
言わずと知れた平和祈念像だ。

高く指さすのは右手、原爆の脅威
大きく広げたのは左手、平和
お顔は軽く目を閉じている、犠牲者への冥福

右足は横に倒れている、原爆投下後の静けさ
左足は立てられている、救った、立ち上がった命

その像も1人では立てないなと思った。
でもどっしり構えた威厳は、強さと優しさがあった。

修学旅行なんて、もう15年も前の話だ。長崎に行ったのはその1度だけだ。
それでも実際に色々なものを目にした。たったそれだけでも十分考えるきっかけになったと思うし、今も心に残る寂しさとがある。

1人で立てなくても、支え合って生きていければいいなと思った。両足でもこの世は大変だから。


1945年 8月9日 11時2分 長崎原爆投下
76年が経ちました。沖縄から平和を祈ります。

まれ様の画像一点お借りしました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?