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累計感染者数15万人を超えたドイツ、なぜ医療崩壊が起こっていないの?

ドイツでは、新型コロナウイルスの累計感染者数が15万人を超えました。しかし依然として医療崩壊には至っておらず、イタリアやフランスから重症患者の受け入れも行っています。

報道にもあるように日本では医療崩壊が起きはじめています。マスクや防護服の不足は切実な問題となり、患者を受け入れるための集中治療用ベットがないため入院できずに自宅で亡くなる方が出てきています。
新型コロナ患者への対応に追われる病院では、他の病気の患者の手術が延期されたり、出産の際に病院に受け入れてもらえないなど、他の患者や妊婦にも影響が出ているようです。

4月25日現在の日本の累計感染者数は13,000人超。10倍以上の感染者がいるドイツで医療崩壊が起こっていないのはなぜなのか。
今回はドイツの新型コロナ対策における医療体制について書いてみようと思います。

素早い専門チームの結成!!

中国で新型の肺炎が確認されたのが2019年の12月末。ドイツの感染症研究機関であるロベルト・コッホ研究所は、その直後の1月6日に専門対策チームを結成しました。

その後、専門チームは新型コロナを従来型インフルエンザよりも約10倍危険と結論づけ (4月13日にWHOも追随)、専門医と学者、医療技術者が交代で週末もPCR検査を実施できる体制を即時に立ち上げられるようにしました。

具体的には下記の準備を行い、大量のPCR検査を可能にしたのです。

公的機関に加え、数百の民間の研究機関を総動員
・ドライブスルー式や自宅への訪問による検査など様々な方法を導入し、大量に検査をしても医療現場に混乱が生じないよう工夫。
・感染リスクを診断するサイトやアプリも導入。設問に答えて感染の可能性を判定し、必要に応じてテレビ電話での相談予約や臨時の検査場への訪問などを勧めることで人員を削減。

また、ドイツ連邦政府は専門チームと密な連携を開始。学校休校やロックダウンなどの新型コロナ対策を行うときには必ず専門チームのアドバイスを基にしています。メルケル首相はスピーチで毎回「ロベルト・コッホ研究所の試算では」「ロベルト・コッホ研究所の助言により」と科学的な根拠があることを述べ、国民が納得し行動できるように説明してきました。
正体不明のウイルスに対応する際に、この連携は大きな役割を果たしています。

圧倒的なPCR検査数!!

現在、ドイツでは5万件/日 (日本:2-3000件/日) の検査能力で日々感染者を特定して隔離していくことに成功しています。ドイツはこれでもまだ足りないとして、20万件/日の検査数を目指しています。ここまで増やせば、検査対象を「明らかな症状がある人・感染者と接触した人」から「感染の疑いのある人・感染者と接触していない人」に拡大できるとしています。新型コロナウイルスは、爆発的な感染拡大が収まってロックダウンが解除されたあとも緩やかに広がると考えられており、その際に再び感染爆発が起こらないよう軽症者を早期発見・治療できる体制を整えておく必要があるそうです。
この検査容量の達成には、特に人員面で多くの障害を抱えているといい、難民申請している他国の医療関係者などで補充しつつ、検査体制を整えていっているようです。

あまり日本では報道されませんでしたが、ドイツでは1月に中国から持ち込まれたウイルスがバイエルン州の企業内で広がったものの、PCR検査をフル活用して感染者をゼロに抑え込んだ実績があります。さらにどのようにウイルスが拡大したかの感染経路も徹底追跡しており、この件では食堂で後ろに座っていた同僚へ塩を手渡したことで二次感染が起きたと結論づけるに至っています(詳細はこちら)。
PCR検査と感染経路の解明を徹底的に行うことで、どのように感染していくのか初期の段階から把握でき、次の対策が科学的に打てているのだと思います。

この記事にもあるように、日本の保健所の方々は精一杯PCR検査に対応されてます。対応する人や機器がない日本でドイツのような検査体制を作るのは一朝一夕では到底無理でしょう。削減されてきた公衆衛生関連予算が復活することで必要な人が検査を受けられ、新型コロナの感染状況が明確になることを願っています。

人工呼吸器と集中治療用ベッドが充実!!

PCR検査が早い段階から整備されていたとしても、感染者を治療していく設備がなければ医療崩壊は防げません。その点でもドイツは万全の準備を整えていました。

3月の時点でのドイツ、イタリア、日本の10万人あたりの人工呼吸器、集中治療用ベッドの数は下記の通りです。人口呼吸器、ベッドともにドイツの保有数が一番多いのがわかります。ベッド数は新型コロナウイルスで多数の犠牲を出しているイタリアよりも日本の方が少ないんです。ドイツはというとイタリアの2.5倍近く、日本の4倍の集中治療用ベッドを保有しています。

さらにドイツ政府は3月16日からベッド確保に助成金を出すことでベッド数を拡充しました。通常のベッドを1つ増やすと7万2000円、集中治療用ベッドを1つを増やすと600万円の助成金が政府から出るそうです。現在ドイツのベッド数は人口10万人あたり48.1床まで増えていて、ドイツ全土で約4万床となりました。そのうち約1万床はまだ空いている状態で、新型コロナウイルス拡大から2ヶ月近く経った現在も集中治療用ベッドの約75%しか埋まっていない状況なのです。
これがドイツで医療崩壊が起こっていない大きな要因です。

パンデミックに備えて準備されていた!!

そもそもなぜドイツは早い段階から準備ができていたのでしょうか。

中東呼吸器症候群 (MERS) が広まった2012年末、国立感染症研究機関であるロベルト・コッホ研究所やドイツ連邦防災局などは、パンデミックがドイツを襲ったことを想定したレポートを連邦議会に提出していました。
さらに、当該レポートをもって連邦政府は各州政府にパンデミックに備えるように指示を出しました。各州ではベッドなどの医療設備を拡充し、PCR検査に官民連携して対応できる体制を徐々に整えていき、今に至っているのです。

ドイツでは8年前からパンデミックに備えた準備が行われていたのです。

さいごに

社会制度に関してもそうですが、医療に関してもドイツは平時の準備をかなり入念に行っていたことがわかりました。加えて、PCR検査の人員増強やベッド確保への助成金のように、緊急時に足りない分は政府が即座に支援をしています。その結果、医療崩壊が起きずに致死率3%程度に抑えたまま感染が収束に向かっています。
また、政府が感染症の専門チームと密な連携を取ることで国民に的確なメッセージを送れていることは、ドイツの強みだと感じました。

日本の医療崩壊が準備不足や予算・人員不足が原因なのは明白で、このままではイタリアやフランスなどのようなひどい状況に至るのではないかと心配です。医療崩壊が起こると、治療する患者を選別するトリアージュを行わなければならず、助かる命も助からなくなってしまいます。
4月24日にやっと具体的な医療現場への物資支援が発表されましたが、これ以上の医療崩壊が起こらないように、政府は全力で医療現場および保健所への支援を行ってほしいと思います。

また、一般人にはわかりにくい医療崩壊について言及し、なぜ感染拡大のための対策をしないといけないのか、様々な措置はいつまで続くのかという説明を専門家と共に継続的に国民に発信していってほしいです。

※写真はバルコニーで育てているチューリップです。奥にみえる中庭の遊具は閉鎖されており使用が禁止されています。

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