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何が自分に合っているかなんて今でも分からない

昨日は1日中雨だった、冬から春に移り変わるために空は忙しそうだ。今日は曇りだけど風が強くて寒い。本当に春はやってくるのだろうか・・・そんな事を考えながら空を見上げていた。

もうすぐ3月、世間は旅立ちと別れの季節。職場や家庭でのメンツは大して変わらないのにこの時期になるとほんのり切なくなってしまうのはなぜだろう。きっと昔の事を少し思い出してしまうから。


24歳の冬、私は追い込まれていた。私は看護師になるために定時制の学校に入学して午前中は病院で仕事をし、午後から授業を受け夕方はお弁当屋か夜勤をしていた。学業をそっちのけで生計のために授業以外のほとんどをバイトに注ぎ込んでいた。数時間の睡眠を削ったくらいの勉強しかできておらず、おかげで毎日眠たくて授業もろくに聞けていない有様。

「何で1日は24時間なんだろう。36時間くらいあったらいいのに・・・」

本気でそう思っていた。1日が36時間ならじっくり勉強もできるし、眠れる。毎日分刻みで進んでいく時間に追われて流される日々を送っていた。1月、国家試験前の最後の全国模試が行われた。この模試で合格できるか否かのおおよそが分かるようになっている。返された答案用紙を見て愕然とする。クラス順位は後ろから2番目だった。今まではどうにか平均くらいの位置にいたのに、今回は目も当てられない結果だった。周りのクラスメイトは必死に勉強していたんだろう。

「このままの成績じゃあ、看護師になれないよ。どうするの?」

校舎の廊下を歩いていると後ろからやや強い口調で担任の先生から投げかけられた。
看護学校の先生は基本厳しい。上手くできても厳しいし、上手くいかなかった時はもっと厳しい。命を預かる職業上ミスは許されないからだ。学生の頃から縦社会を叩き込まれて今に至る。専門学校に入学した時にも、
「あなたたちは学生なんだから、勉強が本業。バイトなんてやってる暇ないよ。そんな暇があるなら知識を増やしなさい」と啖呵切られ唖然としたこともあったっけ。先生たちも少しでも多くの看護師を育成し、旅立たさなくてはいけないから大変なんだろうけど・・・。

「赤本を3回やりなさいって言ったでしょ?解いて、間違えたところは調べていくうちに問題が解けるようになるから」と、続けて先生は言う。赤本っていうのは国家試験過去5年間の問題集。3年生になった時最初に言っていた言葉だった。

「やってはいるんですけどね。追いつかなくて」

歯切れの悪い返答をする私を見て、深いため息をつく先生。

「今までのやり方では合格できないよ。違うやり方を考えないと・・・。あいかもさんが本気で取り組むのなら朝勉強しようか。私も付き合うから。」
3年生になってからの学校は終日授業になっていた。10月末までは臨地実習で、11月以降は卒業試験、国試対策となっていた。先生は授業が始まる前の1時間自習に付き合ってくれるという内容だった。

「お願いします」と、即答してしまった。今でもいっぱいいっぱいなのに毎日早起きしてできるのか、一末の不安はあったけれど国試に合格するためにはなりふり構ってはいけない、私と先生の挑戦が始まった。

それから毎日、先生は付き合ってくれた。私と全国模試クラス順位で最下位だった亜美ちゃんと一緒に。先生の本気はすごかった、間違えば罵倒される
「こんなのも分からないの。合格したいんでしょ。」
悔しくて、こらえきれず涙が止まらない。私の姿を見て「大丈夫?」と心配そうにのぞき込む亜美ちゃん。こんなことならもっと真剣に勉強してればよかった。
准看護学校を卒業し、そのまま併設されている看護師課程に入学した。祖父に報告した時に「自分で決めた人生やけん、やりきらんとね」と言われた言葉が頭に浮かぶ。”合格して卒業するしかありえない”高校を出て就職する選択もあった。女で1つで育ててくれた母に早く楽させたい想いもあったけど進学する事を決めた。一足先に社会人になった同級生に劣等感を感じながらも資格さえ取ってしまえば私だって立派な社会人になれると歯を食いしばって踏ん張った。
ここまで付き合ってくれた先生を信じてもうひと頑張りするしかない。次の日、何事もなかったようにお互い朝自習に取り組んだ。

そして国家試験当日、2月25日。試験は福岡で行われた。
「泣きながら頑張ったんだからここまでこれたんだよ。自分を信じてやりきってきなさい」と最後に先生が背中を押してくれて、私は全力で立ち向かうことが出来た。

3月上旬卒業式、数日前に合格通知のはがきが届いた。合格ライン2点差だった。卒業式当日来なくていいと言ったのに、娘の晴れ舞台だからと母が駆けつけていた。校舎入り口で先生と会ったそう。合格おめでとうの挨拶に続けて、
「娘さんを泣かせてしまいましたが、最後までついてきてくれました。よく頑張りましたよ」と、言っていたそう。
先生の叱咤激励がなければ私は合格しなかったかもしれない。「お母さん、先生に感謝しかなかったよ。いい先生に巡り合えたね」と帰り道ずっと言っていた。



それから13年、休職していた時期もあるけれど看護師を続けている。この職業が自分に向いているのかは今でも分からない。これでよかったのかと悩んだり、迷ったりの繰り返しだ。あまり勉強してこなかったから仕事を始めてからも苦労や失敗だらけだ。1年前の自分を振り返ってみても成長しているのかは分からないけど、経験と場数は踏んだ。そして、辛い事があっても止めないのは、やっぱりこの仕事が好きなんだなぁと思う。
これから夢に向かって頑張る人達は、不安だらけの人もいるかもしれない。それでも、決断した自分を信じて全力を尽くしてほしい。
いつかあきらめないで頑張ってきてよかったと思う日が来るから。

何が向いているかなんて誰にも分からない
継続したその先に答えがあるのかもしれない。


最後まで記事を読んでくれてありがとうございました!