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PM7:45  2

値札がない。

大根、こんにゃく、牛筋、卵、がんも、はんぺん等々。
芥子色のだしに入浴しているのに、彼ら(彼女ら?)には値段が一切ない。
何でだろう。
初めての人にぼったくる類の人であろうか。
少し嫌な気がしたけれど、嫌いになるほどの理由でもないしとりあえず素直に聞こうとした。
でも、なんて聞けばいいのだろう。
そんなことを思っていると、

「タダだよ。わたしゃ、アンタみたいな独り身のぼんやり生娘には優しいんでね。最も、私がそうだっただけなんだけどねぇ。」

意外な気もした。意外じゃない気もした。

思えば変ではある。私は何も言っていない。まるでエスパーである。

更には、このお婆さんにどこかで逢った気がする。それも、もっともっと小さいころ。

「じゃあ、大根と巾着。」

「あいよ。」

なんだか楽しそうである。
やっぱりこの感覚どこかで感じてきた。
落ち着くようなそわそわするような。どこでだろう。

大根
おいしいに決まっている。おでんにおいて今までに美味しくない大根なんて食べた記憶はない。”じっ”っと手応えがあって、半分に割れて出汁が染み出す。こんなYouTubeだけでご飯が食べれそうだとも思う。
口に入れると殆どなくなってしまうが、ちょっと感じれる大根の大根らしさが心地いい。これも、どこかで食べた味。

巾着
揚げに噛り付いて驚いた。
何で?
中身は卵    

死んだおばあちゃんがしていた。
先月生きているようなまま死んだ。
でも、おばあちゃんはこんな人じゃなかった。
いや、まずおばあちゃんは死んでいるのだ。ここにはいない。ここにはいない。
でも、おでんには別に卵があるのにここにも卵が入っているっていう異常さはおばあちゃんそのものなのである。

ならば、、、

「巾着2個とこんにゃく、ちょうだい。」

言ってから気付いたが、イントネーションに独特の方言が入ってしまった。おばあちゃんと話すときはいつもそう。田舎だから逆にそっちの言葉で話さないとわからないらしい。殆どおんなじだと思うんだけど、、、
なんか恥ずかしかった。

おでんのおばあちゃんはちょっとだけ眉を上げて驚いたらしかったがよく意味の分からない笑みを浮かべて「あいよ」という。
同時に絶妙な溜息。

この人いったい誰なんだろう。

「何でここでおべん売っているんですか?名前はなんてい・・・。」

思い切って話したことと、緊張とで噛んでしまったが、それよりも、おでんが出されたことと、そのおばあちゃんが

「あい、さっちゃんよくお食べ。」

って言ったことに驚いて唇が固まってしまった。
酸素不足の金魚だ。ぱくぱく。

「えっ」

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