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ジョジョの奇妙な冒険の『ムーディー・ブルース』から考えるAI倫理問題

 多くの人が『日本人の大半は平和ボケしている』と感じるのと同様に、企業倫理、医療倫理、報道倫理といった応用倫理学の専門家の多くが、『日本人の大半は倫理問題に関心がない』と感じています。筆者は、これまで様々な角度からAI倫理問題に取り組んできましたが、他の倫理問題の専門家と同じ感想です。

 そこで筆者は、この問題を打破するために、アニメ大国日本の特質を生かして、アニメに絡めてAI倫理問題を語る試みを始めました。

 第一弾では『攻殻機動隊』、第二弾では『ワンパンマン』でAI倫理を説明したところ、アニメに絡めて倫理問題を説明すると、アクセス数が劇的に増えることが確認できました。そこで、今回はシリーズ第三弾として『ジョジョの奇妙な冒険』をテーマにAI倫理を解説します。
 
 以下、ネタバレあります。スタンドの能力は秘密にするのが基本です!

 ジョジョの奇妙な冒険・第5部『黄金の風』に登場するキャラクター、レオーネ・アバッキオのスタンド『ムーディー・ブルース』は、過去の出来事を再生する能力を持っています。具体的には、特定の場所や時間の出来事を再現することができ、それを他人に見せることができます。
 
 この能力には、以下のようなAI倫理問題が指摘できます。
 
プライバシーの侵害:ムーディー・ブルースが過去の出来事を再生する能力は、個人のプライバシーを侵害する可能性があります。例えば、誰かの過去の行動や会話を勝手に他人に見せることは、その人の秘密やプライバシーを露出することになります。現実においても、AIや監視カメラなどの技術が人々の行動を記録し、それを第三者に公開することは大きな倫理的問題となります。

真実の捻じ曲げ:ムーディー・ブルースが再生する情報は正確であるとされています。ところが、生成AIを用いた情報の作成や再生では、データが改竄されたり、悪用されるリスクがあります。人々は『見たこと』を真実として受け取る傾向があるため、情報が正確でない場合でも、それを信じて行動することが考えられます。これが所謂、ディープフェイクニュース問題です。

過去の囚人:過去の出来事を常に再生・再確認できる技術があると、人々は過去の過ちや選択に囚われる可能性が高まります。過去の失敗やトラウマを繰り返し見せられることで、前に進むことが難しくなるかもしれません。

心の安寧の権利:人々は自らの過去や秘密を再生・露出されることにより、心の平穏を損なう可能性があります。過去の出来事が再生されることで、トラウマや苦痛が再燃する場合もあるでしょう。

技術のアクセス:このような技術が限られた人々だけに利用可能であれば、情報の不均衡や権力の不均衡が生じる可能性があります。例えば、特定の組織や政府がこの技術を独占的に利用することで、市民の行動をコントロールするなどのリスクが考えられます。アメリカのSF映画やSFドラマでありがちな話では、シェイプシフターと呼ばれる容姿を自由に変装できる特殊能力者や宇宙人が、大統領に成りすまして悪事を働くような話です。

デジタル・タトゥー:デジタル・タトゥーは、個人がインターネット上に残すデータや行動の痕跡を指します。この痕跡は消去が困難で、一度インターネット上に情報が流出すると、それが永遠に残る可能性があります。ムーディー・ブルースの能力は、過去の行動を物理的に再現するものであり、これはデジタル・タトゥーの現実版とも言えるでしょう。人々の過去の行動や選択が常に再評価される社会は、過ちを許さない、厳しい監視社会となる恐れがあります。
 
コンセンサスと同意:テクノロジーを使用して個人のデータを取得や再生する際、その人の同意が得られているかどうかは重要な問題となります。ムーディー・ブルースのような能力を有する者が、他者の過去を勝手に再生することは、その人の同意を無視する行為となり得ます。
 
情報セキュリティ:過去の情報を再生・再現する能力があれば、それに対するセキュリティも重要となります。不正アクセスされたり、情報が悪用されるリスクを考慮しなければなりません。
 
 これらの問題は、ムーディー・ブルースのような超常的な能力だけでなく、現実のテクノロジーやAIがもたらす問題としても考えられます。適切なガイドラインやルールが必要となることは明白であり、これらを通じてテクノロジーの進化と倫理のバランスを考え続ける必要があります。

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