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ジャスミン革命に見るSNSの圧倒的影響力とデジタル社会の変革

1.デジタル社会がもたらす国家変革の可能性

 デジタル革命は私たちの生活や社会構造に大きな変化をもたらしました。特にコロナ禍でのリモートワークは一部の人々の生活様式を一変させましたが、その影響は限定的です。

 どの業種にもデスクワーカーとノンデスクワーカーが存在しますが、全体としてはノンデスクワーカーが多数を占めています。そのため、リモートワークに適した職種は少なく、日本全体への影響も限定的です。さらに、新興国では日本以上にデスクワーカーが少なく、リモートワークの影響はほとんど見られません。

 例えば、私が環境事業を展開しているモザンビークでは、労働力の70%以上が農業に従事し、その大半が自給自足の農民です。彼らの多くはリモートワークや情報機器による施設園芸とは無縁です。

 一方で、アフリカ諸国でもスマートフォンの普及により、SNS利用者は職種を問わず急増しています。SNS利用者はリモートワーカーを大きく上回り、情報伝達の速度や範囲が劇的に広がりました。これにより、個人が社会や政治に与える影響も著しく増大しています。

 この結果、国家転覆や社会構造の再編成が以前よりも容易に起こり得る時代となっています。特にジャスミン革命は、SNSがもたらす巨大な影響力を証明した歴史的な出来事でした。

 そこで、本稿では、この革命を通じて、リモートワーク以上にSNSがデジタル社会に与える圧倒的な影響について考察します。

2.ジャスミン革命とSNSの力

(1) ジャスミン革命の背景
 2010年末から2011年初頭にかけて、チュニジアで起きたジャスミン革命は、SNSを通じて情報が拡散され、長期独裁政権が崩壊した歴史的な出来事です。この革命は『アラブの春』の幕開けともなり、多くの国で社会運動が連鎖的に発生しました。

(2) SNSと情報拡散
 ジャスミン革命では、SNSが情報拡散と市民の組織化に大きな役割を果たしました。当時、ベン・アリ政権はSNSの検閲や情報統制を強化していましたが、人々はさまざまな手段で情報を共有し、抗議活動を組織化しました。SNSは革命の成功に寄与した重要なツールとなりました。

(3) Google、Facebook、Twitterの支援
 ジャスミン革命は、自然発生的な市民運動だけでなく、GoogleやFacebook、Twitterといった巨大IT企業の支援があったとも指摘されています。当時、ベン・アリ政権はSNSの検閲や情報統制を強化していましたが、それに対抗する形でこれらの企業は技術者をチュニジアに派遣し、情報拡散を支援しました。具体的な詳細は明らかになっていないものの、企業の介入が革命の成功に寄与した可能性は否定できません。

3.チュニジアでの実体験

(1) 革命前のチュニジアの社会状況
 私がジャスミン革命に詳しいのは、革命発生時にチュニジアに滞在していたからです。革命前のチュニジアは、『明るい北朝鮮』とも呼ばれるほど、表向きは穏やかで礼儀正しい社会でした。しかし、秘密警察や密告制度が存在し、政府への批判は厳しく抑制されていました。

(2) 革命中の現地での経験
 革命が勃発すると、数時間前まで穏やかだった人々が一転して抗議活動に参加しました。街中ではデモや集会が行われ、緊張が高まりました。私自身、現地でその急激な変化を肌で感じ、緊迫した状況を何度も経験しました。この時、SNSを通じて情報が瞬時に拡散され、人々の行動を大きく左右していることを実感しました。

(3) 革命後の変化
 革命後、チュニジアの社会は大きく変わりました。長期政権が崩壊し、民主化への道が開かれました。しかし、新たな課題も生じました。SNSの力は絶大である一方、情報の真偽や拡散の影響についての懸念も高まりました。

4.検閲問題とAIの二面性

(1) 検閲を行う政府と企業の動き
 デジタル社会では、情報の自由な流通が可能である一方、政府や企業による検閲も行われています。ベン・アリ政権は情報統制を試みましたが、市民たちはそれを乗り越えて情報を共有しました。しかし現在、多くの国でインターネットの検閲や監視が行われており、情報の自由が脅かされています。

(2) フェイクニュースを生成するAIの影響
 近年、生成AIの進化により、フェイクニュースや偽情報の作成が容易になりました。これらの偽情報がSNSを通じて拡散されることで、社会不安や誤解を生むリスクが高まっています。特に政治的な文脈では、フェイクニュースが選挙や社会運動に影響を与える可能性があります。

(3) 検閲を行うAIとその限界
 一方で、偽情報を検出し削除するためのAIも開発されています。しかし、これらのAIも完璧ではなく、誤った情報を見逃したり、正確な情報を誤って削除したりするケースもあります。また、AIによる検閲が新たな情報統制の手段となる懸念も存在します。

5.SNS革命の未来と国家転覆への影響

(1) デジタル技術と社会構造の再構築
 デジタル技術は社会構造の再構築を促進しています。SNSを通じた情報共有は、人々が迅速に組織化し、行動を起こすことを可能にしました。これにより、国家転覆や大規模な社会運動が以前よりも容易になっています。

(2) AI技術がもたらす新たな課題と可能性
 AI技術の進化は新たな課題と可能性をもたらしています。フェイクニュースの生成や拡散が容易になる一方、情報の検証や真偽の判定もAIに依存するようになっています。これにより、情報の透明性や信頼性が揺らぐ可能性があります。また、AIを用いた監視や検閲が進むことで、個人の自由やプライバシーが侵害されるリスクも高まっています。

6.デジタル時代における変革の行方

 ジャスミン革命は、デジタル社会がもたらす変革の象徴的な出来事です。SNSやデジタル技術の力により、国家転覆や社会構造の再構築が現実のものとなりました。しかし、情報の自由と統制、真偽と偽情報、そしてAIの二面性といった新たな課題も浮き彫りになっています。デジタル時代において、私たちはこれらの課題にどう向き合い、社会をどのように導いていくべきかを深く考える必要があります。

武智倫太郎

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