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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.41 第五章
ホームセンターでの買い物から、大工仕事までのほとんどを、圭は手伝った。のこぎりも、くぎを打つのも、やりたがったので、時間はかかったがやらせてみた。普段、頭を使うことの方が多いカケルにとっても、案外やり始めたら楽しい仕事だった。
仕上げのやすりをかけながら、圭が口を開く。
「うちってさ」
ぞりぞりぞり、とやすりの下から細かい木の粉が生まれてくる。
「貧乏なのかな」
カケルは、手を止めて圭の顔を見た。淡々とした表情で、手を動かしている。
「習い事、何もしてないの、ぼくぐらいなんじゃないかなぁ」
それから、ぞりぞりやりながら、ちょっと小さい声で付け加える。
「別に何かやりたいってわけじゃないからいいんだけど」
たぶん、他に言いたいことがあるんだろう。何かを内にためているような、でもはっきりとはしない圭の様子が気になる。
「カケルさん」
ふいに呼ばれて、はい、と生真面目な返事をしてしまった。
「ぼくが、時々あの柵を越えてトンネルの向こうへ行ってること、お母さんには、言わないで」
前を見つめたまま、そう口を開いた横顔が、思いの外大人っぽく見えて、こちらの動作も止まってしまった。彼は、どこか遠くを見つめるような目をしている。
「お願い」
圭は、カケルの顔を真っすぐ見つめた。口元はきゅっと固く結ばれている。真剣な目の中に、周りの夕景が映りこんでいる。ぼくの世界を壊さないで、と言われているような気がした。立ち入ってはいけない、彼なりの領域がそこにはあるのだ。
「分かった。言わない」
カケルは、ウッドデッキにしゃがみこんだ。圭と目の高さを合わせるために。
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