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砂浜の記憶

海と一体となったような町、そこに住む小学生の亜矢は母の結婚指輪を大切にしていた。それは亡くなった母から受け継いだ、唯一の繋がりだった。

ある晴れた日、亜矢は父親と共に海岸へと足を運んだ。

「亜矢、気をつけな、こけんなよ」
と父親は優しく注意した。

海岸で遊んだあと、亜矢は母から受け継いだ指輪がないことに気付いた。

「あれ、指輪どこいったんやろ...」
と彼女は声を震わせた。

父親は亜矢を見て、どうすればいいのかを考えた。

「亜矢、だいじょうぶだよ。大切なのはお母さんの思い出だ。もんはなくなっても思い出はずっと心に残るんだよ」
と、励ましの言葉をかけた。

しかし、亜矢はあきらめられなかった。そして、担任の敬子先生に相談しようと思いついた。

「先生、どうしたら海岸で無くした指輪を見つけることができますか?」と、亜矢は期待を込めて尋ねた。

敬子先生は一瞬、言葉を失った。彼女の心は亜矢の頼みを断ることで引き裂かれていた。

「亜矢、それは...ほんとにむずかしいんだよ。海岸は広すぎるし、指輪は小さすぎる...」
と、敬子先生は言葉を絞り出した。彼女の心が亜矢を傷つけることに耐えかねていた。

しかし、それは敬子先生が決めた答えだった。彼女は自分が亜矢の担任である以上、真実から目を背けることはできないと心に決めていた。それがどれほど心を痛めても。

敬子先生に無理だと言われてしまった後、亜矢は一人、家路についた。

家につくと彼女は父親に向かって、
「とうちゃん、スマホ貸して」
と頼んだ。

父親は少し驚いた顔をしたが、亜矢にスマホを手渡した。

亜矢はそのスマホで何かを検索し始めた。"海岸での指輪探し方"と入力し、検索結果を一つ一つ読んでいった。しかし、どれも亜矢の期待する答えはなかった。

その時、亜矢は一つのアイデアに目がとまった。「ChatGPTって何?」と彼女は独り言を言った。父親に尋ねてみると、ChatGPTはあらゆる質問に答えてくれるAIだという。亜矢は思い切ってChatGPTに質問を投げかけた。

「ChatGPTさん、海岸で無くした指輪を見つける方法はありますか?」
と彼女は尋ねた。

すると、画面には予想外の答えが表示された。
「金属探知機を自作することで、指輪を見つけることが可能かもしれません。」
とChatGPTが教えてくれた。

亜矢の目は大きくなった。自分で金属探知機を作ることができるのだと知った彼女の心には、新たな希望が芽生えた。

「これなら、見つけられるかもしれん・・・」

と彼女は小さくつぶやいた。

・・・

亜矢は、自分で金属探知機を作ろうとした。部品を集め、ChatGPTから得たレシピ通りに組み立てを進めた。しかし、細かい作業や電子部品の扱いには手間取り、うまくいかないことが多かった。

「これは、もうちょっと大きくなってからやるべきだったかな…」
と亜矢はひとりつぶやいた。

翌日、学校で再び敬子先生に相談を持ちかけることにした亜矢。
「先生、なんか…うまくいかなくて…」
と、思い切って話し始めた。自分が取り組んでいること、金属探知機を作ろうとしていること、でもそれがなかなかうまくいかないことを。

敬子はしばらく黙って亜矢を見つめた。そしてゆっくりと頷き、
「亜矢ちゃん、それはすごいことだよ。自分で問題を見つけて、解決策を考え、行動に移そうとしたんだもん。それだけでも立派なことだよ。」
と言った。

敬子は亜矢の言葉に耳を傾けながら自分自身を振り返った。
あの日、亜矢が泣きながら指輪を探す姿を見て、「子供には無理だ」とすぐに判断してしまった自分。あの時の自分の言葉は、亜矢の前向きなチャレンジを否定するものだった。
その行動は、子供たちが自分たちの力で問題を解決しようとする試みを遮るものだった。

敬子は、一人の大人として、また一人の教師として、その自覚のなさを深く恥じた。自分が子供たちの可能性を信じることができなかったこと、子供たちにチャレンジする機会を奪ってしまったことに対する自責の念に胸が痛んだ。

敬子と亜矢は学校で部品を探し、また地元の電気店や知り合いにも頼んで必要な部品を集めることになりました。

こうして簡易な金属探知機は作り上げることができ、二人はその足で海岸に向かった。

「亜矢ちゃん、何か見つかった?」
敬子先生は優しく尋ねた。

彼女の視線は、対岸に映る夕日から少女の顔へと移った。亜矢の小さな手に握られた金属探知機は、砂浜の上で無数のビープ音を発していた。

「先生、なんでも引っかかっちゃうんです…」
亜矢は疲れた顔で先生に答える。能登半島の広大な砂浜を眺めると、探し物を見つけるのは針を山から探すより難しいと感じる。

敬子先生はしばらく黙って考え込み、深くうなずいた。
「亜矢ちゃん、まずはもどろう。あすは授業があるからな」

帰りの車中、敬子は運転しながら考えた。砂浜にある他の金属物に反応しすぎる金属探知機。その問題をどう解決すればいいのか。

その夜、敬子は眠れなかった。頭の中には、砂浜で亜矢が一生懸命探す姿が浮かんでいた。最初は「無理だ」と言ってしまった自分を恥じ、亜矢のために何ができるかを考え続けた。

朝が明け、敬子は亜矢の活動を学校全体に伝えることにした。敬子は校長室に向かい、校長に自分の考えを伝えた。

「金属探知機を作る活動を理科の課外授業として行いたいんです。それによって、生徒たちが自分たちで問題を解決する力をつけられると思います」

校長は深くうなずいて快く承諾した。

その日の放課後、敬子は教室に生徒たちを集め、亜矢の活動を紹介した。

「亜矢ちゃんがお母さんの形見の指輪を探しているんだ。私たちは彼女の努力を応援するため、理科の課外授業として金属探知機を作る活動を始めることにした。皆の力を貸してほしい」

敬子の言葉に、生徒たちは一瞬驚いたが、すぐに頷き、亜矢を助けることを決めた。敬子は、その生徒たちの前向きな態度に、あらためて自分の教師としての役割を再確認し、亜矢と同じくらい感動した。

それからの日々、学校全体が一丸となり、金属探知機の量産に取り組んだ。その活動の中で、敬子もまた、生徒たちの力を信じ、自分の力で彼らをサポートすることの大切さを再認識した。

海の風が亜矢の髪を静かに揺らす。敬子先生が声をあげて、数えきれないほどの子どもたちに声をかける。

「それでは、みんなで探し始めましょう!」

鮮やかな日差しと海風、砂浜の微かな匂いが空気を満たす。みんなが手にした金属探知機を、砂に向けて進める。海辺のどこかに、亜矢のお母さんの形見がある。

亜矢は心臓が高鳴りながら見守った。どこかでビープ音が鳴れば、それが自分のお母さんの形見の可能性がある。それは、彼女が宝物とする大切な思い出だ。

30分も経たないうちに、ビープ音が鳴ったとき、亜矢の心はドキリと跳ねた。海辺に散らばる子どもたちの中で、一人の男の子が金属探知機を掲げ、驚いた顔でみんなに向かって叫んだ。

「見つけた!」

その声が響くと、すぐに周囲の子どもたちは息をのんだ。そして、続いて歓声が上がり、男の子の元へと人々が集まってきた。彼の手には、小さな指輪が光っていた。

敬子は驚きと感動で言葉を失い、一方、亜矢はその場に立ちすくんだままだった。その小さな指輪は、彼女があきらめずに探し続けた、お母さんの形見だった。

「亜矢ちゃん、これでしょう?」
男の子はゆっくりと亜矢に近づき、その指輪を差し出した。

亜矢は涙を浮かべながら、ゆっくりと頷き、その指輪を両手で受け取った。

「みんな、ありがとう...」

その言葉はほんの小さな声だったけれど、海風に乗ってみんなの耳に届いた。その瞬間、探し物が見つかった喜びで、砂浜は大きな拍手と歓声で溢れた。

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