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ジョブズを超えた伝説の卒業スピーチ「This is water./これは水です」のお話①

大学の卒業式でスピーチをできる人ってすげえよね。

あんな大人数を前に、時に笑いや涙を誘いながら、人生の教訓を届けてしまえるんだから、すげー才能だ。尊敬しちゃう。

中でも「名スピーチ」と呼ばれるものは話題を呼び、現代ではバズコンテンツとしての地位を確立している。

スタンフォード大のスティーブ・ジョブズ大先生の「Stay Hungry. Stay Foolish./ハングリーであれ、愚か者であれ。」とか、近畿大学のホリエモンさんのとか、キンコン・西野さんのとか、パッと思い浮かぶだけでも何人かいらっしゃる。そりゃあもうバズってる。実際、内容もすばらしい、バズるのもうなずける。

いい話を聞くってのは、生活に必要なビタミン補給みたいなものだよね。


大学の卒業スピーチとは、これから社会人になる人間への最初のレッスンであり、大学生として聴く最後のレッスンでもある。(みたいな言葉がある)

経済的にも成功者であるジョブズらの才能は誰もが認めるところだろうし、大学を卒業し、これから社会へ出ていく人間にとって、良きモデルケースであり、ある種のヒーローでもある。そういう人物が選ばれるもんだし、そういうポジティブなお話が求められるもんだろう。


しかし、そうした成功者を押しのけて、2010年にアメリカ・タイム誌の「歴代卒業スピーチベスト10」で見事1位に輝いた伝説のスピーチがある。


作家、デイヴィッド・フォスター・ウォレスさんの

「This is water/これは水です。

だ。

(全編英語です。後半に日本語訳をしてくださっている方のページを貼りますね)


ん?誰??

と、思うかも。ムリもない。アメリカでは新進気鋭のベストセラー作家として有名なデイヴィッド・フォスター・ウォレスさんは、日本ではあまり紹介されておらず、なかなかマイナーな存在。しかし本国アメリカにおいては、特にポストモダン文学の文脈で彼は「天才」と称されるのだ。


天才、デイヴィッド・フォスター・ウォレス


ん?そうなの??

と思うかも。すまない、実は筆者もウォレスの著作は読んだことがない。(翻訳されている作品が少ないし、翻訳されているものもすでにプレミアがついてAmazonで1万円とかするので手が出ない。。)なので確かなことは言えないし、正直ぼくの情報はWikipedia以下だ。詳しくはウィキってください。


でも実際、彼のファンはとても多いらしい。

代表作「Infinite Jest」は1000ページ以上ある長編で、ベストセラーになった。

頭の良さそうなヤツはだいたい読んでた。頭が良さそうに見せたいヤツもだいたい買って家に置いてた。「Infinite Jest」を読んでいれば、モテた。読んでるフリでも、モテた。だから「Infinite Jestを読んだフリをする方法」みたいな本まであったらしい。(欲しいw)

家の本棚に「1Q84」と「デジタルネイチャー」が並んでいたらそれなりにカッコ良さそう、みたいな感じか?10代〜60代くらいまで、幅広い年齢層の、感度のいい、知的な人の感性に響く。まあとりあえずウォレスさんはそんな立ち位置の作家らしい。(おれの中の中二病が疼くぜえ)


だから、卒業スピーチの依頼が来たのもうなずける。

彼の話を聞きたい学生は、当時めちゃくちゃいたはずだから。

けれど、2010年にタイム誌「歴代卒業スピーチベスト10」で1位に選ばれた時の文脈は、もうちょっと違う。

なぜなら、ウォレスさんは2005年のスピーチの三年後の2008年に自殺しているからだ。


卒業スピーチにとって、自殺はかなりネガティブな要素だろう。

その時のウォレスさんは44才だった。そのくらいの年齢で自殺してしまうことを「よし!」と受け入れられる生徒も保護者も、たぶんすごく少数派だと思う。だから、彼を社会的な成功者だと感じる人もきっと少ない。

人生のモデルケースとするには、自殺はあまりに危うい最期だ。


けれど、ウォレスさんのスピーチは、あまたの成功者や社会的リーダーのそれを差し置いて1位として紹介された。(ちなみに2位は同年のスタンフォード大のジョブズのスピーチだ)

その理由は、やはりスピーチそのものが素晴らしかったからだ。


ウォレスさんのスピーチは、人生の「Truth=真実」に溢れている。

そのスピーチの中で、彼は作家人生を通じて獲得した人生の「Truth=真実」について、できるだけわかりやすい言葉で、卒業生たちと同じ目線に立って、語りかけている。

アメリカ版「君たちはどう生きるか?」みたいなもんかな。

ウォレスの風貌も、どことなくコペル君っぽくて親しみがわくタイプなんだ。


ウォレスの言葉は作家らしく知的だが、そこに過剰な言葉は一切ない。

ユーモアに富んだ表現はたくさんあるけど、演出めいたものはない。ただただ、ウォレスさんは社会人生活の「来る日も来る日も、退屈で、苛立ちを覚える、くり返しの日々に、いかに適応していくか?」

その価値と、難しさを教えてくれる。

とても謙虚に、みずからの失敗談すら包み隠すことなく。


上であげた動画は、彼の死後に、スピーチに感動したちっちゃな広告会社のスタッフさんが作成し、YouTubeにアップし、1週間で500万回再生とバズったもの。(らしい)


そのスピーチは全文和訳され、何年か前に本として出版されているんですが、コチラのブログの方が和訳してくださっているので紹介しますね。

quippedさんのブログ。長いけど長さを感じさせないフランクでめっちゃ読みやすい訳文です)


僕も数年ぶりに読んだんだけど、感動しちゃった。

で、この話は大学生くらいの世代にはもちろんなんだけど、

社会人生活が長くなるほど刺さる話やん

とも思った。

正直、数年前には若すぎて、この話のリアリティがよく分からなかった。でも、今なら分かる。すごく分かる。痛いほど分かる。刺さる。痛ええ。でも気持ちええ。イタ気持ちええんや。


あの日、決してなるまいと誓ったはずの”つまらない大人”に、まさに自分がなってしまっているという生々しいリアリティに優しく気づかせてくれる


きっと、このお話の刺さり方が「どれくらいイタ気持ちいいか?」が、僕らがどれくらい”大人”になってしまったか?のバロメーターになると思う。

そして、その後はいい感じにカラダが整体された後みたいに、たしかに心身が若返る。

全米ナンバーワンになった理由がよく分かる。

全米がイタ気持ちよくて泣いた


なんで、その感動をnoteにささっと書こうかと思ったけど、安易だった。こういった深いお話は、自分で噛み砕いて消化しないとなかなか言葉にならない。

単純な「人生のライフハック」的な話ではもちろんないし、けれど簡単に忘れられるような話でもない。

なので、しっかり消化して、血肉としてとどめておく為にも、モグモグ咀嚼しながら感想をまじえつつ、僕なりに感じたことを書いていきます。

いい話を、よく噛んで、ちゃんと消化する。

それが狙いです。

なんでけっこうツラツラした軌道を描くことになるかと思いますが、同じようにかみ砕いて消化したいって方は、ちょいちょい気になるところでも読んでみてくださいな。

それじゃあ、スピーチ冒頭から、やってきまーす。


冒頭「てか水って何?」

2匹の若いサカナが泳いでおり、
逆方向に泳ぐ年上のサカナに会いました。

すれ違い様、年上のサカナはこう言いました。
「おはよう少年たち。今日の水はどうかね。」

2匹のサカナは特に気にもとめず、
しばらく泳いでから、顔を見合わせて言いました。
「てか水って何?

(略)サカナの話のポイントは、
人生において、もっとも自明で大切な現実は、
得てしてもっとも見えづらく考えにくいものだ
ということ。

文章にしてしまうと陳腐な表現ですが、
社会人としての日々の生活の中では、この陳腐な表現が、
生と死に関わるくらい重要になりえるってことを、
この渇いた快晴の朝に、君たちに伝えたいのです。

quipped/「これは水です。」


これがスピーチの題名「Tnis is water/これは水です。」のお話。

人生において、もっとも自明で大切な現実は、
得てしてもっとも見えづらく考えにくいものだ

というのが、これから始まるお話のメインメッセージ。


ここでは(略)したけど、ウォレスさんは、

「あ!でも安心して!オレが賢いサカナで、君たちが若いサカナで、だからオレが説教するとか、そういうんじゃないから!全然ないから!むしろオレも若くて愚かなサカナの方だから!よろしくね!」

みたいな感じで下山してくれてるんだよねw めっちゃ親しみわくw

そしてこの下山芸こそ、ウォレスさんの作風でもあるらしいよ(読んだことないけど)


で、人生にとって、生死に関わるくらい重要だけど、目には見えづらい「水」とはなんなのか?

それは、

「考えるべき対象を自分で選べるようになること」


大体こういうスピーチで語られる、
ありきたりな話の最たるものが、
「リベラルアーツ教育の目的は、
知識をためこむことではなく、
『自分の頭で考えられるようになる』
ことである」というやつです。

もし君たちが大学生の時のぼくみたいだったら、
この話はあまり好きではないと思います。

(略)
大学で得るべき真の教育というのは、
「自分の頭で考えられるようになること」
ではなく
「考えるべき対象を選べるようになること」
だからです。

quipped/「これは水です。」

ちなみにウォレスさんは、普段は大学で創作コースを教える先生もしていたから、学生との対話はうまい。(でもこの日はめっちゃ緊張してたらしい)

ここでも、いかにも校長先生がしそうな、もっともらしい話を持ってきて、

「でも、ぶっちゃけそういうのウザくない?オレがお前の頭を良くしてやった!ドヤあ、みたいで押し付けがましくない?オレはそういうの、嫌いなタイプだったわ〜」

と、ここでも下山芸が炸裂。しかも、1ミリもあざとさが匂ってこないんだから、こんな先生、スキになっちゃうよね。


ここでウォレス先生は、「教育を受ける真の価値」について、サラッと超大切なことを切り出している。

「考えるべき対象を選べるようになること」

それこそが、教育を受ける真の価値だという。

どういうことだろう?


そのことを理解するために、ウォレス先生は「2人のアラスカ人」というショートコントをやってくれます。


ちょっと長くなってきたので、明日へつづきマッスル。

(↓②書きました↓)



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